「スマイル」まとめ後編

「スマイル」まとめ後編
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#9
伊東一馬弁護士はビトに、そして町村フーズの面々にこの裁判の概要を説明した。ビトにとって不利な状況、厳しい裁判になるということを。林の罪を冤罪でかぶり、その仮釈放中に殺人を犯した、世間はビトのことを凶悪な犯罪者だと認識しているはずだ。しかも林の罪は殺人傷害、その罪をまるまるかぶり、くつがえっていない。その上に殺人だ・・。冤罪の事件をくつがえすほどの時間はこの公判で残されていないし、北川検事は計画性犯罪としてビトに重い罪状を突きつけてくるだろう。しかも裁判員制度がこの公判では採用されている。「彼ら裁判員が求められている判断は・・極刑か否か。」「・・つまり死刑ってこと?」「・・そうだ。」面会したビトに伝える一馬。ビトは目を閉じうつむいてしまう。とても楽観できない現状、しかし真実はビトの正当防衛、花を守るためだったのだ。この裁判では極悪人だというビトのイメージを払拭し、彼が追い詰められてしかたなく犯した殺人、ということを印象づけなければならない。一馬はビト、そして自分自身のために決死の覚悟でこの裁判に臨む。
裁判員裁判第一日目。計3日でこの裁判の是非が問われる初日。まずビトが証言台に立ち罪状認否。自分が林誠司を殺害したことを認めた。だがそれは大切な人が目に前で暴行を受けたため、銃をうばったのも被害者である林本人、旅館に立てこもったこともしていない。そのビトの言葉は罪状とはかけ離れたものだった。一馬も続ける。ビトが犯した殺人という罪は重い、しかし、そこまでやらなければならない状況に被告人が追い詰められたという背景があったと演説。「つまりこの事件は、正当防衛なんです。」それを聞き北川の顔は歪む。自分は計画的な犯行と掲げている、どこまでも一馬とは戦う宿命にあるのだ。傍聴席の金太もブルも力強くうなずく。花も心配そうな顔で傍聴席にただずんでいた。
初日の裁判員達はどうこの公判を感じたのだろう。立場も性別も年齢も違うランダムで選ばれた人達。3日という短い時間、基本的には全員一致を目指すがそうでない場合は多数決という条件にみんなたじろぐ。しかも検察側と弁護側の意見は正反対なのだ。過去の罪に関しても弁護側は冤罪と主張していた。偏見のある刑事による誤認逮捕、その裏には被害者林の父親・警察庁キャリアの圧力が働いていたという。もし過去の事件が本当に冤罪なら被告人である早川ビトは初犯で、しかも極悪人というイメージもだいぶ違ったものになってくるのだが・・。
その夜。花は証言台に立つ決意があることを一馬に伝えていた。一馬はマスコミに対して恐怖がある花がそこに立つことに心配する。色々な人達からの目にさらされ、検事からは心ない言葉で質問攻めにあうだろう・・。花の父親が新興宗教まがいのマルチ商法で捕まっていて、マスコミが過去に散々に花を追い回したことがある過去を知る一馬は花のことを心配したのだ。だが、花の決意は固かった。自分が証言してビトを助けたい!その気持ちの強さに一馬もしおりも心打たれた。
裁判二日目。北川検事はビトの罪を皆に説明する。<林は事件の起きる数週間前からたびたびビトを尋ねていた。それは人生をやり直す相談をしたかったため。それなのにビトはかねてから恨みのあった暴力団員殺害に林を巻き込み、拒否した林を怒りと口封じのために殺害した>と。「異議あり。証拠にもとづかない憶測にすぎません。」「異議を認めます。検察は客観的事実のみを述べるように。」一馬の異議を裁判長が認めた。「では被告の犯行に計画性があった証拠として、まず殺害現場の写真をご覧いただきます。」北川の言葉に、裁判の場で林がうつぶせに倒れて血を流している画像がディスプレイに写しだされた。会場はどよめき花も厳しい顔になる。裁判員達も皆顔をしかめた。<林を威嚇射撃もせず急所に一発で殺害している。もし本当に正当防衛ならこういう撃ち方ができるのだろうか?しかも事前に交番を襲撃して手に入れた銃、強烈な殺意があったと認めざるえない、更生しようとしていた昔の仲間を殺害した凶悪な事件だ>暗く重い沈黙が場を覆う。ビトは泣きっ面になってしまった。花は傍聴席からビトを励ます。だが、ビトは極悪な人間だと再び印象づけられてしまった・・。
検察側の証人に交番で襲われた警察官が呼ばれていた。<ビトが自分を襲い銃を奪った>と証言する。交番の中でふたりきりだったという警官。だが、一馬はドアが開いていた交番で誰かが入ってきた可能性があるのでは?と指摘。地図を広げてビトに背を向けた時に殴られたと証言しているが、もしそれが本当なら右利きのビトに殴られたのなら主に背中の右側に傷がつくと指摘。棒状のもので殴られたというのなら尚更、左側に傷がたくさんついているのはどうしてなのか?これではふんばりがきかなく殴りつけにくい。としおりと一馬は実践的に場に説明する。が、左利きなら正当性がある、「ちなみに、被害者である林の利き腕は左でした。以上です。」一馬の言葉に場が再びどよめく。
弁護側証人としてタクシー運転手が呼ばれた。林に暴行を受けたあの運転手だ。<花が嫌がっていたのですぐに車を発車させなかったら林に蹴りを食らわされた、そのあと暴行を受けた。異常なくらい凶暴な印象を受けた>と証言する運転手。この証言で林が被害者にも関わらず、得体の知れない人間だったことが印象づけられる。ビトや弁護側が言うように、交番の警察官を襲ったのも本当は林なのでは?という空気が流れはじめた。しおりも場の雰囲気に少しだけ笑みをもらす。今度は北川が運転手に二枚の写真を提示してどちらが林だったか?と問う。運転手は林本人の写真を選ぶが、次の二枚の写真にはとまどいがでた。花ともうひとりの女の子の写真。どちらが林といっしょに乗っていた女性だったか?・・運転手は花とは違う写真を選んでしまう。北川が嫌らしい笑みを浮かべた。これにより、運転手の証言はぼやけた印象になってしまう。なかなか北川もやり手だ・・。一馬も渋い表情を浮かべる。そもそも北川は林が本当に罪のない被害者だと思っているのか?一馬に一泡吹かせたい一身で検察側としてたっているのではないのか・・。それは私怨だ。いままでの一馬とビトとの関わりで散々な目にあってきた私怨だけが北川の猛攻を支えている・・。
町村みどりが弁護側証人として立った。<夫である町村宗助が自殺したこと。理由は帝国食品のもち米混入事件に巻き込まれ、週刊誌の中傷記事により銀行の融資が止められ自殺に追い込まれた。その記事を買収して書かせたのは林>「異議あり。本件とは関連性がありません。」「被告人と加害者の関係を知る上で重要な点です。」「異議を棄却します。」「被害者には兼ねてから被告人を暴力で心理的に支配し、自分の手足として利用していた経緯があります。」一馬のあとに今度は北川はみどりに対し反対尋問を行う。そういう経緯も加わって被害者である林を恨み、ビトは林を殺害したのではないか?「あなたは悲しい人ですね?」みどりが突然北川に言うのだ。「は?」「誰かにひどいことをされれば仕返しをするに違いないと思わずにはいられない。そういう基準でしか人間を見られない方だから、お気の毒だと申し上げました。」<ビトはそういう感情とは無縁にがんばってきた子だ。多国籍料理の店を開きたい、世界中の人が分け隔なく笑顔で食べに来れるお店。ビトは一生懸命働いていました。どんな不幸な環境に生まれてもどんなひどい目に会っても、自分の力で幸せになろうとがんばっていました>そのみどりの言葉にビトはうれしくて泣いてしまう。場も穏やかな空気が流れた・・。
裁判員評議の二日目。裁判員達は被告人であるビトのイメージが凶悪犯ではないのではないか?むしろ被害者だったのでは?という空気が漂いはじめていた。ビトの林に対する思いも忘れられない。最初自分をからかう人間から助けてくれたとビトは証言していた。それがきっかけで林達のグループとつるむようになったと。<林はフィリピン人とのハーフだという偏見をみせない人間で、凶暴な部分はあったが自分を守ってくれた、いっしょにいると自分が強くなった気になった、どこかで信頼関係みたいのがあった>と話すビト。ビトは林のことを悪く言わなかったのだ。そのことが逆に裁判員達の印象をよくしていた。大切な人が暴行をうけて、そして自分のことをフィリピン野郎とけなした。その直後に林はビトによって殺害されている。しかも銃を掴み挑発してきたのは林のようなのだ。それなら心臓に直接一撃というのもうなずける。「情状酌量のよちはありそうですね・・。」
二日目の公判が終り、一馬はビトと面会していた。今は有利な状況だとビトに説明する。明日、花が証言することにビトは大丈夫?と心配していた。「彼女の意思は固いよ。」「いつも彼女に助けられてる・・。」「ここでたら、一生大事にしてやれよ!」「はい。でられたら必ず。」一馬はガッツポーズし、ビトは微笑んだ。
裁判三日目。弁護側証人として三島花が証言台に立つ。失声症なので執談で証言する。<ビトが林に連れて行かれたと思い心配になり、その林のいるアパートに行った。ビトが林になにかされるんじゃないか?と。そして林に見つかり・・暴行を受けた。>これにより林が凶暴な人間だったこと、ビトは巻き込まれた側では?と場の雰囲気は一致し始める。しかし、検察側・北川の反対尋問が始まった。「なぜひとりでいったのですか?暴力の危険性があるのなら、誰かに相談していっしょに行くはずなのでは?」<助けようと必死だった>「あなたは恋人である被告人が被害者を殺そうとしていたのを知っていた。それを止めるために、だが誰にも知られないようにひとりで行ったのではないのですか?」<違います>「あなたは被告人を止めようとして逆に被告人に蹴られ気を失った。」「異議あり。検察官は自分の意見を押し付けようとしています。」「異議には理由がありません。これは重要な部分ですから、このまま尋問を続けさせてください。」「異議を棄却します。」「あなたは被告人が怖くて真実が話せないんじゃないですか?あなたが恐れている被告人は本当は凶暴で残酷な人間なんじゃないんですか?」「違います!」花は北川を睨みつけ思わず言葉を発していた。「え?」北川も思わず面喰らう。「彼は本当に心のやさしい人です。すべては私を守るためにやってしまったことなんです。どうか彼の言葉を信じてあげてください。」花は頭を下げる。「花ちゃん・・。」しおりも思わず嘆息してしまう。一馬も、そしてビトも花の声を聞き、驚きと喜びの表情を向けていた。場は花の真摯な想いに心打たれたようだ。「・・最後にひとつだけ教えてください。あなたの父親はカシワバラセイテンですよね?」!?場がどよめきに包まれた!花も目を見開き驚愕する・・そして苦しみだした。マルチ商法で大勢の被害者をだした幸運の会の会長・・カシワバラセイテンの娘。詐欺罪に問われ今は獄中だが、その娘という事実は場の雰囲気を一変させるものだった。「異議あり!!」一馬もたまらず叫ぶがもう遅い、場は多大なるどよめきが巻き起こってしまう・・。

#10
必死の想いから花は証言台に立つ!(ビトを自分の手で助けたい!)北川のあまりの反対尋問の攻撃に「違います!」花は自分でも信じられないほどの凛とした声でそう発していた。「彼は本当に心のやさしい人です。すべては私を守るためにやってしまったことなんです。どうか彼の言葉を信じてあげてください。」花の言葉に裁判の場は心打たれた・・。だが、カシワバラセイテンの娘だという事実が北川の言葉で暴露され、花の立場は一変、<マルチ商法で詐欺罪に問われ現在服役中の男の実の娘>再び場は騒然となり、花は胸を押させ苦しみ出す。北川の、今回の裁判の件とはまったく関係のない、正攻法じゃないやり方で、ビトを弁護した花の言葉は正当性を失ってしまった。そしてビトの立場もまた危ういものになってしまった・・。そして花の声は、また出なくなってしまうのだった・・。
裁判の場では被害者・林誠司の母親が証言台に立っていた。現在は別の家族がいて林とは連絡もとっていなかったという。その背景には旦那(林の父親)の暴力があった。林は幼い頃から父親に暴力を振るわれていたという。息子を守れるのは自分だけだったという母親。しかし、その母親もその暴力に耐えかね離婚を決意した・・。<息子である林には会うな>という条件もその離婚条件に含まれていたと話す。「暴力をふるう父親、自分を捨てた母親、昔の仲間である被告人に何度も接触したり相談を持ちかけたのは、その深い孤独を埋めるためだった。その想いを被告人は無情にも踏みにじったのです!」北川が雄弁に語り、場は深刻そのものとなる・・。ビトもその母親を悲しそうに見つめていた。
今度は一馬の反対尋問が始まる。責任を感じるのはわかります、しかし林はもう自分の行動に責任を持たなくてはならない年齢だったはずだ。と。母親はうなずく。だが、林は事件直前に電話を自分に掛けてきていたというのだ。「電話・・?」思わず聞き返す一馬。事件が起きる前、林は母親に電話を掛けていたのだ。だが・・その電話を話も聞かず切ってしまった・・。「あの時・・話を聞いてやってれば・・こんなことには・・。小さい頃は本当にやさしいいい子だったんです。離婚して家をでる時にも絵を描いてくれたんです。絶対迎えにいくからね・・待っててねって。」母親は泣き出してしまった。「・・息子を・・殺さないで欲しかった!」母親の悲痛の叫びは場を悲しみで包みこむ。一馬も次の言葉を失い、しおりを涙ぐんでしまっていた。そして・・ビトは呆然と母親を見ながら立ち尽くしていた・・。
被告人質問。もう裁判も大詰めを迎えている。ビトは北川の質問に答えることになった。あくまでも計画性じゃないというのなら、どうしてすぐに自首しなかったのか?ビトはそれに<約束を果たしたかった>と答える。もう花とはこれきりだろう・・自首するその前に富士山を見に行く約束を叶えたかった・・。「富士山見物ですか?人を殺したあとに?」北川の言葉に裁判員に選ばれた面々も顔をしかめる。本当は逃げるためだったのでは?被害者は母親に助けを求めるほど追い詰められていた、にも関わらず交番を襲い奪った銃で計画的に被害者を殺害した!北川は攻撃の手を緩めない。だが・・ビトは計画性や交番を襲ったことを否定するも、その状況は口をつぐんでしまう。傍聴席でブルは、なぜ本当のことを言わないと愚痴るが、金太は諭すように言う。「言えねえんだよ・・。あのお母さんのこと考えると・・。」
論告・求刑。北川は過去の傷害事件の件を含め、なんの反省もみられないこの被告人に、<死刑>を求刑した!花は目を見開き動揺してしまう・・。一馬はアゴに手をやり無言だった。だが、最後の仕事が残っているのだ。
最終弁論。一馬は裁判の場に集まるすべての人達に訴えかけていた。「なぜこんな事件がおきてしまったのか?そこには被告人が幼少時代から受けてきた差別や偏見が大きく影響しています。」普通の人達にはなかなか実感できないことかもしれない、今の日本にそんなものがあるのか?「ですが、思い出してください。検察官が証言台に立つ彼女を、カシワバラセイテンの娘であると悪意をもって公表しました。その瞬間、この法廷の空気は一変しました。彼女を見る目が変わったんです。犯罪者の娘ならばこの子もきっと悪に違いない、彼女の証言は信じられない。笑顔で毎日を懸命に生きてる女性に対し一瞬でそういうレッテルが貼られてしまった。それが偏見なんです、それが差別なんです!差別や偏見はごく身近なところに存在しているんです!」被告人はそういう差別をずっと受けてきた「道を歩けば外国人登録証を見せろと言われ、近くで犯罪が起きればあいつが犯人ではないか?と疑われた。過去の事件も刑事の偏見によって犯人にしたてあげられた冤罪事件だったのです。人間は弱い生き物です。決してひとりでは生きていけません。今回の事件は、ありのままの自分を受け入れてくれる大切な人を守ろうとして起きた悲劇なのです。考えてください。自分の愛する人が目の前で蹴られ殴られ、それ以上の暴力を加えられそうになった・・殺意や計画性はまったくなく偶発的に起こった正当防衛なのです!被告人は今、その罪を心から悔いています。被告人を裁くのは法律とあなた方です。しかし、被告人に手を差し伸べることができるのも法律とあなた方なんです!法律は人を救うためにあるものだと私はそう信じます!皆様の寛大な判決を切に望みます。」心の底からの弁論だった。一馬は最後の望みをすべてかけ、法廷中に響き渡るように語るのだった・・。
最終評議。裁判員に選ばれた人達の意見はまとまっていないのか紛糾する。即座に有罪死刑と唱えるもの、有罪と思うものの正当防衛を認めるもの、過去の罪についても今回の事件についてもわからないことが多すぎると悩むもの・・全員一致がかなわない場合は多数決で決まる。裁判官の決も含めて・・。民主主義と掲げている国で今日、この多数決が多くの場合とりいれられているが、この多数に含まれない少数が切り捨てられるわけだ、この少数の方が正しかったとしても・・。思うに特に日本では、個人の意見や考えより多数や組織の考えが優先されるケースがままあると感じる。これをお国柄とくくってしまえばそれまでだが、果たして。人はもっと個人の主張や考えに目を向けるという感性や目をそれぞれが養うべきではないだろうか?
一馬や花達、ビトの身内達にとってはとても長い時間に感じられた。そして・・ビトに判決が言い渡される。<死刑>・・花は胸に手をやり動揺を隠しきれない。一馬は無言で、だがその目は充血していた・・。ビトは冷静にその判決を受け入れているようにみえる。そのわけはビトの身内の人達にも計り知れないものがあったのだ。一馬でさえも、ビトの苦しみは理解できなかった、この裁判が終わったあとも・・。
林が母親に絵を描いたという。ビトもまだ幼い頃母親に絵を描いたことがあったのだ。フィリピン人だった父親と別れたあとも男に入り浸り、あまり自分を返りみない母親。だがビトは自分に目を向けて欲しくて一生懸命に絵を描いていたのだろう。林のことを悪魔だと思っていた・・ずっと怖い存在だった。でも違ったのだ。自分と同じ、もがいて苦しんでいたひとりの人間だった・・。それを自分は殺害したのだ・・。
裁判が終り、今度は一馬達は控訴に向け動きだしていた。このままビトを死刑にさせるわけにはいかない。しおりや花は路上で署名運動を続け、一馬と金太は証言してくれそうな人間を当たる。一馬は甲斐にも会いにいった。その過程で林の父親が口を封じるかわりに、色々と便宜を図っていたことを知る。まさにビトだけに罪をかぶせるシナリオだったことが、あらためて事実として浮かび上がってきた。しかし、林の父親は警察を辞職に追い込まれてから、天下りの会社も辞めていて行方がわからない・・。
金太も昔の仲間をあたっていたが、やはり古瀬刑事が口封じの圧力をかけていたことを突き止める。一馬は古瀬に会いにいった。「そんなに冤罪ばれるの怖いか?そんなにビトを死刑にしてえか?あんた本当に冤罪じゃないと思ってるのか?どうしてそこまでビトを目の敵にすんだ?」一馬は古瀬を問い詰めた。古瀬は過去を話しだした。(昔、薬の売人の外国人労働者を捕まえたことがある。偏見と差別で食えなくてしかたなしにやったという。その言葉を聞いて見逃してやった。だが・・娘が襲われた。薬を取り上げた逆恨みで・・)「それ以来、娘は病院と家といったりきたりだ。」目を一馬に合わせることなく、苛立つように言う古瀬。「まじめに働いている奴もいる。けどな、楽なほうに逃げて悪い仲間とつるんでるような奴は、絶対に偏見や差別に勝てねえんだよ!」「・・あんたもつれえ思いしてんだ。でもな、あいつは違う。外国人だろうが日本人だろうが、ひとりひとりを見極めて、真実を見つけ出す。それが、あんたや俺がやらなきゃいけない仕事だろうが。」「早川ビトは偏見に負けた犯罪者だ。」「あいつは負けてねえ。絶対に負けねえ。俺が証明してみせるよ。」その言葉に古瀬は一馬を見た。一馬は冷静に、だが、とてつもないほどの強い眼差しを向けていた。その目には真実と信念が宿っていた。
花は懸命に署名活動をしてビラを毎日のように配っていた。(自分のせいでビトが死刑になってしまった・・)自責の念に苦しんでいる花。だが、町村みどりが花に言う。<ビトを支えてあげられるのは花ちゃんだけ!>花はビトを励ますために面会に行く。その顔はとても明るかった。ビトの前で辛い顔はみせない。それがとても健気だが・・。花がきてくれても、一馬が面会にきても、ビト自身は林を殺害した感触を思いだし苦しんでいたのだ。「今あきらめたらな、おまえを追い詰めてきた差別や偏見に負けることになるんだぞ?」一馬の言葉にも素直にうなずけない・・。(自分は人を殺した・・控訴しようなんて考えていいのか?)
ある日。ビトに一馬と花は呼ばれる。ガラス越しのビトはひさしぶりの穏やかな顔をしていた。「運動場で小さな花をみつけたんだ・・。小さいけど生きてた、一生懸命生きてた。控訴・・取り下げてもらえますか?僕は死刑を受け入れる。」一馬は目を見張り、花も笑顔が硬直してしまう・・。

最終回
「控訴・・取り下げてもらえますか?僕は死刑を受け入れる。」「おまえ、自分の言っていることがわかってるのか!?」「僕は林さんの命を奪った。だから自分の命で償う。」「むやみに死を選ぶことが償いじゃない、人には正しく裁かれる権利と義務がある!それを放棄するのか?」だが、ビトの想いは変わらない・・。ガラス越しのビトの表情は穏やかだが、どこか魂が抜けたような表情にも見えた。一馬も花も、ビトの突然の告白に衝撃を受ける。ビトは死刑判決を受けたことで意気消沈してしまっているのではなく、林の命を奪ったという事実だけを受け入れて、罰を受けようとしているのだ・・。「花ちゃん・・ごめんね。もう、ここにはこないで欲しい。」花は顔を歪めていやだいやだと首を振る。「よく考えろ!ビト!」一馬の言葉も耳に入らない。ビトはお世話になりました。と頭を下げ、出ていってしまった。ガラス一枚向こうにいるビトがやけに遠い。そして扉が閉まる・・。「おい!ちょっと待て!俺は絶対死なせねえぞ!」一馬の怒声が空しく響いた。ビトは裁判にも出ないと決め、死刑を受け入れることを望んだ。花は顔を下に向け泣いている。一馬もくやしさと切なさでガクッと膝を落としてしまった・・。
一馬はビトが裁判にでなくても控訴をする。それは法律上可能だったが、確たる証拠がみつからなかったため棄却された。林の罪を被った冤罪事件をひっくり返すことが、ビトの林殺しの罪の印象を変える一因になる。しかし、今だ林の父親の行方はわからず証拠はそろっていなかった。証言してくれる人間がいなければ裁判には勝てない・・。ビトの死刑は確定した・・。
あれからもう5年の月日が流れていた。だがみんな、ビトのことをあきらめていない。一馬もあらゆる手を使って林の父親・林誠一郎を探していたが、今だ手がかりはなかった・・。警察庁に足を何度運んでも門前払い。知らないはずはないのだが・・組織に関わることなのだろう、誰一人口を開く者はいなかったのだ。あの検事の北川も、そんな一馬を何度も見かけているのか、物陰から様子を見ていた。(どうしてそこまであの事件を執拗に追い続けるのか?一体誰を探しているんだ?)北川の中にもある種の疑問が沸いていた。警察の人間に尋ねてみる。「林のおやっさんですよ、ほら?例の。心配いりませんよ、居場所は教えませんから。証言なんて絶対にさせません。」その男は北川の問いに笑いながら答えた。あの伊東一馬という弁護士もしつこい男だ、裁判でも苦労したでしょう?と笑いかけてくる。「・・・」北川の表情が呆然とする。目が泳いでいた・・。
花はあれから何度もビトの面会にきていた。だが・・いつも会えない。ビトは面会を拒絶しているのだ、5年が経った今も。そしてビトは未だに苦しんでいた。林を殺めた感触に毎晩のようにうなされている。林の死に際の表情が浮かび上がり、自分を睨みつけていた・・。ビトは一馬の面会には楽しそうに話をしているが、それはみせかけの笑顔だったのかも知れない。自分の罪と、いつくるかわからない死刑執行の日に、毎日のように怯えていたのだった・・。
面会に来た一馬に刑務官・柏木が震える声で話しかけていた。「なんとかならねえかな・・。一馬さん・・。」柏木はビトと一馬とはもう長い付き合いで、友達のように面会時にも雑談する仲だった。もちろんビトの冤罪や正当防衛も信じて疑っていない。ずっといっしょにいればビトの人柄もわかる。その柏木の引きつった表情に、一馬も顔色を変えた。「・・まさか・・。いつだ?」「・・・明日の・・朝・・。」
その足でビトの面会に顔を出す一馬。笑顔でビトは出てきたが、柏木の表情は暗い。一馬もなんて声をかけていいかわからず今日は忙しいから。とその場を去ろうとした。ビトは一馬の背中に声をかけた。<花ちゃんに、もうこないでとあらためて伝えて欲しい。自分はもう忘れたから>と。「・・忘れられると思うか?花ちゃんおまえのこと忘れられると思うか?」一馬は振り返ってそう言っていた。「おまえ周りの気持ち本当に考えたことあるか?なんでもかんでもひとりでしょいこんで、実はな!それが一番自分勝手なんだよ!死刑を受け入れるだ?てめえだけ笑って死んでな、周りの誰が笑えんだよ!?花ちゃん悲しませて、おまえ平気なのか?俺は絶対あきらめねえぞ!てめえの惚れた女くらいな、てめえの惚れた女の笑顔くらいな、なにがあったっててめえで守り抜け!馬鹿野郎!!」ガラス越しの一馬は身を乗り出し怒っていたのだ。ビトはそれで確信してしまう・・執行命令がでたのだ・・。
一馬は事務所に戻って法務大臣宛てに電話を掛けていた。もちろんとりついでもらえるわけがない。それでも腹を立てて落ち着かない一馬。死刑執行は明日の朝だ・・何をどうしていいのか一馬にもわからないのだろう。ただ時間だけが刻々と過ぎていく。と、事務所のドアが突然開かれた。北川が真剣な顔で立っている。「・・新宿運動公園だ・・。林の父親は今そこにいる・・。」一馬は思わず席を立ち上がり、「公園?」と聞き返していた。「すべての繋がりを絶って、ホームレスになってる。」「ほんとか?でも・・なんでそれを俺に。」「君達のためじゃない。私は・・真実を裁きたかっただけだ・・。」「・・恩に着る。」「はやく行け・・。」一馬は一目散に駆け出していた。北川の言葉でどうにか望みがでてきたビトの命。北川も冤罪だったとようやく悟ったのか独自で林誠一郎の居場所を聞きだしていたのだ。いつぞやの裁判では一馬に対抗意識を燃やすあまり、事件そのものにちゃんと目を向けていなかったのかもしれない・・。北川は北川なりに自問自答して、ようやくひとつの答えを今、出したのだ。一馬だけじゃなくしおりも金太もブルも総動員で公園中のホームレスに声をかける。もう時刻は夕方に指しかかっていた、時間がない。しかし、あせる気持ちに反して、いっこうに林誠一郎の姿はみつからないのだった・・。
もう面会時間はとっくに過ぎた夜。面会受付のガラス戸を叩く音で柏木は受付窓に出向く。そこには花が立っていた。花の深刻な表情に柏木も事態を察した。花はビトの死刑執行のことを誰かから聞いたのだろう・・。柏木は急いでビトを連れてくる。いきなり連れ出され花と対面させられたビトは動揺する。「時間がない!伝えろよ、5年分の想い!」柏木はビトの背中を押した。そしてふたりきりにさせ扉を閉める。「・・柏木さんたら無茶するよなあ。・・悪いんだけどもう時間ないから。もう・・帰ってもらえるかな?来てくれてありがとう。」花はその声を聞いてガラスいっぱいに身を乗り出すようにした。その顔はせつなさと真剣さが入り混じっている。「ごめん・・。君に会ったら本当のことがばれそうで・・。ごめん・・。お願いだから・・もう帰って。君に会えて本当によかったって思ってる。」(いやだ)花は声にでない声で言っていた。ビトは自分の未来がどうなるのか知っている。花に会ってしまったら、自分の罰を受け入れる決心が揺らいでしまうから会えなかった・・。ビトもいつのまにか泣き出していた。花は(いやだ、いやだ)と何度も首を振りビトに訴えかけている。「・・僕のことは忘れて誰か別の人と、幸せになって。」「いやだ!!」いつぞやのように花は声がでていた、澄んだ凛々しい声・・。「私はあなたと幸せになりたい!」「待って・・。」ふたりはガラス越しに両手をピッタリと合わせていた。「花ちゃん・・好きだよ。僕は君を君だけを、毎日毎日想い続けるよ・・。」花はうれしそうに笑った。花は話す。富士山の麓の町で、ビトと始めて会ったことを。父親のことで毎日いじめられ続けた、みんなが自分を虐げていた。そんな時、あなたがやさしく声をかけてくれた。吊るされたランドセルをとってくれた・・。「・・あの子、花ちゃんだったんだ。」「声が出るようになったら、ちゃんと伝えたかった。あの時、あなただけが私にやさしかった。あの日からずっとずっとあなたが好きだった。だからうれしかった、もう会えないと思っていたあなたに再会できて。全然変わってなくて、私が好きになった時のやさしいあなたのままだった。」「僕ね・・こうなって初めて死ぬってことがわかったんだ。怖い、正直すごく怖いよ。でも、でも僕はやっぱり重大な罪を犯したんだって。なにがあっても人の命は奪っちゃいけなかったんだって・・。でもね花ちゃん。死ぬってことの意味がわかって初めて生きることがわかった。・・僕は生きたいと思った。君といっしょに生きたくてたまんない・・。僕は間違ってた。一馬さんの言うとおり、どんなことがあっても必死で生きようと思わなくちゃいけないんだって。ごめん・・僕はやっぱり馬鹿だ・・。」その時!扉が開き、他の刑務官が飛び込んできた。必死に柏木が時間をかせいでくれていたが、この面会は規則違反なのだ。「もしまた君に会えることがあったら!今度はもう絶対に負けない!逃げない!どんなことがあっても君を守って生きてく!」ビトの泣きながらの叫びは、刑務官に引きづられ遠のいていく。花は泣きじゃくり、それをただ見送るしかなかった・・。ビトは明日・・その命を絶たれる。
フラフラと歩きながらホームレス達に声をかける。もうどれだけの時間こうして歩き続けただろう。一馬はまだ林の父親・誠一郎を探し続けていた。「どこいったんだよ!ちくしょう!」もう日も沈み真っ暗だった・・。足が痛くてさする。(くそっ!)だが、顔を上げると目の前にひとりの男が立っていた。人目でわかる、その男は林誠一郎だった・・。格好はたしかにホームレスだが、自分を睨みつけているその眼光は、元警察庁次長のものなのかもしれない。「林さんですね・・。息子さんの事件はご存知ですか?」誠一郎は新聞の切り抜きを一馬に見せる。「早川ビトはあなたにとって息子さんの命を奪った憎むべき男かもしれない・・。でもなぜ彼がこのような犯罪に至ったのか、あなたにはその理由がはっきりとわかってるはずです!」あなたが過去にビトをおとしめた事でどれだけ彼が傷ついてきたか。その彼が今、死に直面している。「私は弁護士として彼に冤罪を着せたまま死なせるわけにいかない!お願いします。彼の冤罪を晴らすために法廷で証言をしてください!真実を話してください。」「断る。私の証言で迷惑をかける人が大勢いる。裏切ることはできない。」「この後に及んでもまだ組織が大事ですか?」誠一郎は一馬を睨みつけた。「あなたの息子さんは幼い頃から親の愛情、あなたのやさしさを心から求めていた!それを受けられなかった彼は、暴力で人を服従させることで心の空白を満たし、必死で孤独から逃げようとしていたんです!彼にはそれしか手段がなかった。彼もまた、あなたの被害者のひとりなんです!」一馬が掴む肩を必死に振りほどいて逃げようとする誠一郎。だが、一馬はその肩を離さずさらに言葉を続けた。<もし2000年の事件で林誠司を正しく導いてあげていれば、こんな悲劇は起きなかったかもしれない!>「林さん!!あなたに人の心があるならば、もうこれ以上若者の命を無駄にさせないでください!」一馬は土下座する。「お願いします。もう時間がないんです!証言してください!お願いします!」だが・・誠一郎はその一馬の脇をすり抜けていってしまった・・。
朝。ビトは刑務官達に連れられていた。ついにやってきてしまったのだ・・。あのドアの向こうに刑の執行が待っている。ビトはドアの前で膝を落とし、泣きだしてしまった。(あんなに覚悟を決めていたのに、今は生きたくてたまらない!)刑務官達も悲しそうな顔でビトの肩に手をいれビトを立たせる。そしてそのドアの前に連れられ、ビトは中に入っていった・・。ドアが閉まる。だが、そのあとにひとりの刑務官が走りこんできたのだ・・。
林誠一郎の証言でビトの冤罪は晴れた。そう、ビトはギリギリのところで死刑を免れたのだ。その後の林誠司殺害も刑が軽減され懲役10年、さらに5年の身柄拘束が考慮され、模範囚のビトは3年ののち仮釈放された。
ワゴン車の周りにはオープン型の席が何席も軒を連ね、たくさんの人達が食事をしていた。色々な人種の人達の姿が目立つ。そのワゴン車には花が料理を作っていた。ビトの残したレシピでたくさんの種類の料理を作っている。そこは・・ビトが夢見ていた多国籍のお店のひとつの姿だった。「いらっしゃいませ。」!!そこに立っていたのはビトだった・・。花は目を潤ませ笑顔を見せる。「・・おかえりなさい。・・待ってた。」ビトが笑う。「ただいま。」花はワゴン車を飛び出しビトに抱きついた。食事していたみんなが一斉に歓声を上げる。ちょうど一馬達も来たところで、その情景を見た。どんなにこの光景を夢みていたことだろう・・。みどりやしおり、金太、ブルもうれしそうに笑う。一馬は真剣な顔をして、そして笑った。ビトと花がワゴン車で料理を作り、一馬達はそれを食べる。いつしかその席には宗助の写真も飾られ、柏木も駆けつけていた。ビトの夢はまだ始まったばかりだ・・。だが、その一歩がなければ何も始まらない。この幸せを導いたのはビトの周りの人達、ビトもそれを糧にがんばり続けることだろう、今は花もとなりにいるのだから・・。一馬は事務所の名前をユン・ソンギ法律事務所と名を改めていた。この物語の本当の主役は彼、彼の本当の自分を取り戻す戦いが、ビトを守る戦いでもあったのだ。ビトと花のお店の名前は「スマイル」という。。

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