「銭ゲバ」まとめ前編

「銭ゲバ」まとめ前編
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#1
工場で黙々と働いている男達。派遣で働いている労働者達だ。今日も、人員削減のためか、ひとりまたひとりと作業員が消えていく。そんな工場労働者達の中に、顔の左側に深い傷がある男がいた。一言も口をきかず目はうつろ、休憩時間でも仲間達の話の輪に加わろうともしない。ボッーと腰を下ろし佇んでいるが・・どこか異様な雰囲気をかもしだしていた。
労働者仲間ではこの不景気、明日は自分が首を切られるのでは?とそんな暗い話題ばかりだ。寺田はさっき工場でヘマをしてしまい管理官を怒らせてしまった。<自分が今度は首をきられる!金に困ってるのに!>寺田は仲間達に陽気に金を貸してくれと頼むが、みんなはもちろん貸すわけがない。しかたなく顔に不気味な傷がある男にも頼んでみるが・・あいかわらず耳がついているのかと思うほどの無反応、無表情。「・・そりゃそうだよね、俺でも貸さないしね。何のために生きてるのかな?俺達。あんたの一番大切なものって何?」その言葉にうつむきながら、だが口元に笑みを浮かべる傷の男。!?「笑った?なあ?笑ったよな?キモイんだよ!おまえ!」その罵声を背中に受け、傷のある男は無言で立ち去った。
寺田は仕事が終わったあと、ひっそりと傷の男のあとをつける。さっきの態度が気に入らなかった、しかも噂では、この傷男は結構金を溜め込んでいるという噂があるのだった。住んでるアパートをつきとめ、傷男がちょっと出かけてる隙に部屋に不法侵入する寺田。鍵を壊して部屋に入り、思わず目を見張る。!(なんてボロな部屋なんだ)だが、噂がほんとならここに金があるはず!寺田は押入れを調べ冷蔵庫を開け、でも何にも入ってない・・。一体どんな生活しているのかとうかがわせるほどの殺風景な部屋。だが、畳に紐がついている。引っ張ってみると、畳の下に札が敷詰めてあるではないか!寺田は狂喜し札を掴むだけ掴みまくリュックに入れた。そして、アパートの階段を降り立ち去る。が、待っていたのは部屋の主、傷男だった!無表情、無言で寺田の行く手を塞ぐ。そして・・「金。」たった一言寺田に言った言葉が金だった。
「少しでいいから貸してくれないか?金がないと俺、もう死ぬしかないんだよ!」そう頼む寺田。土下座してる傍で、傷男は無心に札束めくって数えている。そして口を開いた。「だったら死ねばいい。貧乏人は幸せになんかなれないんだよ。死んだほうが楽になるよ。」ハッと顔上げ「・・なんだよ、それ!」寺田は思わずうめく。そして立ち去ろうとした傷男の後ろを、落ちていたパイプで殴りつけていた。何度も何度も・・。そして金を奪おうとするが!薄気味悪く笑い、しがみついてきた傷男。「そうだよなあ!!なんでもするよな人間なんて。金のためなら!」傷男は愉快そうだった。「何のために生きてるか?って。教えてやるよ!それは、銭ズラ!!」寺田はわかっていなかった。金に執着しているのは、自分ではなく、本当の意味でこの傷男だったということを・・。
あくる日。寺田は死体で発見された。その遺体をみて、ひとりの刑事が呻く。「・・撲殺か・・。」その刑事は荻野聡。過去の事件がふと頭をよぎったのだ。寺田の身辺を探るうち、同じ工場で働いていて、ついこの間解雇された<蒲郡風太郎>という名前に目がいく荻野。どうやら傷があることも知っているようなこの刑事、傷男である蒲郡風太郎の事を、昔から知っているようだ。荻野の表情に不敵な笑みが浮かぶ・・。
風太郎はあの工場を解雇され、次の労働場所が三國造船と決まる。そこで働いてる休憩中、三國の社長とその娘らしきものが工場の広い敷地にたまたま姿を見せた。綺麗な娘。だが、風太郎は三國造船も、この娘・緑のことも知っていたのだ。それはまだ、自分が子供の頃の遠い記憶。しかし、風太郎はその過去を忘れたことはなかった。すべてはその子供時代から始まっていたのだから・・。夜、三國造船の巨大な工場を見て、「手に入れてやる。」笑いながら、しかし風太郎の目はとてつもなく鋭かった・・。

#2
「たとえ貧しくても、正直に一生懸命生きていれば絶対に幸せになれる。神様は見ていてくれる。」母親は、幼い風太郎にやさしくそう言っていた。体は弱かったが綺麗で心やさしい母親だった。それはまだ小学生だった頃の記憶。だが、母親は死んだ。薬が買えないほど貧しかったから・・。父親・健蔵は飲んだ暮れ、たまに帰ってくれば暴れ、金の無心。風太郎の顔に傷をつけたのも健蔵だった。母親にプレゼントするために貯めていた金を持っていこうとした健蔵。それを奪い取ろうと突き飛ばされ、家具で顔を切り裂いた・・。神様は見ていてくれる・・何を!?母親が死んだのも金がなかったからじゃないのか!?・・。((金のせいズラ!!))
風太郎は三國造船の名を目にした時、ある考えを思いつく。そして、様子を伺いある車の前に飛び出した。それは、三國緑の乗っている車だった。三國緑。まだ幼い頃、仲良くなった女の子。その子は自分と違い裕福で恵まれていた、すべてにおいて。家に招待されおやつを出される。風太郎はそれを母親にも食べさせてあげたかったのだ。ランドセルに無造作に入れた。部屋に戻ってきた緑はそれを見て激怒した。<泥棒!>まだ幼い緑には、風太郎の行動は理解することも想像することもできなかったのだろう・・裕福なのだから。後日、三國の家に母親と共に謝りに行ったことを今でも覚えている。あの時母親は涙を流していた。「同じ人間なのに悔しいね・・。」
目が覚めた風太郎の前に緑がいる。美しい女性になっていた。風太郎は自分のことを覚えていますか?と尋ね、緑も思い出したようだ。風太郎は怪我をさせたと詫びる緑にお願いをする。「友達になれたらうれしいです。」「うん。お友達になりましょう。」緑の屈託のない笑顔に、思わず笑顔になる風太郎。だが、その笑顔は昔の友達に再会できた喜びの笑顔ではなかった・・。
船の上に招待される風太郎。緑は友達達を呼んで船でちょっとした食事会でもひらいたのだろうか。周りにいる友人達も裕福そうだ。風太郎の目にひとりの女が目にとまる。楽しそうなその場に、ひとり無言で冷めた目をして佇んでいた。三國茜。緑の妹だ。顔の右側に大きなアザがある。杖を使っているところをみると体も丈夫ではないようだ。その緑の目に、自分と同じものを感じる風太郎。
茜はその船上である事をしでかす。風太郎はそれを見つけてしまった。緑の友人の青年実業家風の男がオークションで落札したという500万の腕時計。それを茜は前面のガラスを叩きつけて壊し、洗面場に置いてきたのだ。時計が大好きで大事だというその男は、二度とお目にかかれないかもしれないとこの時計を買ったという。それほど大事だというものを、逆にいとも簡単に壊す茜。それは風太郎の興味をそそる事件にほかならなかった。洗面所にあった時計を取り、薄気味悪い笑みを浮かべる風太郎。壊れているとはいえ直せばまだ使えるシロモノ。それはオークションで500万で取引された希少で高価なものだ。
船上では時計探しが始まる。もちろんすぐに見つかるはずもない。だが、茜は洗面所に置いてきたのだ。実際はすぐに見つかるはずだった、壊れている時計が。不穏な空気が流れる中で、やはり風太郎が疑われる。それは悪意ではなかったが、その場の中で風太郎がやはり浮いている存在だったのだ。が、風太郎も持っていなかった。すまない・・。とその男は謝る。結局時計は見つからず、港に戻ってきた船からみんな降りて、これからまた飲み直しということになったようだ。が、茜は帰ると言い出し、風太郎も明日は早いので。と茜の迎えの車が来るまでふたりで待つことになった。緑は風太郎に茜をまかせ、自分は友人達と飲みにでかけた。
船上で車を待つ茜、そして風太郎。ふたりの間に沈黙が続く。その沈黙を風太郎が破った。「嫌いなんだろ?幸せな奴が。むかつくよね、生まれた時から幸せな奴って。わかるよ。」風太郎は豪華な部屋を歩きだし、ある場所に向かう。生ごみが入れてあったゴミ箱からあの時計を掴み出した!!驚愕する茜。この男はすべて知っていたのだ!「君の気持ちがわかったからさ。共犯になりたかったんだよね。」やさしく言う風太郎。そして、時計を海に投げ捨てた!「500万かあ。」振り返り笑いながら言う風太郎の笑顔を、茜はずっと見つめていた・・。
後日。造船所で働く風太郎をふたりの刑事がたずねてきた。荻野聡とその相棒だ。「やっと会えたね。」そう笑いかけた荻野。「君がいっしょに蒲田の工場で働いていた寺田という男が殺されたんだ。」「誰ですか?いっしょに働いていた人の名前知らないんで。」その言葉にフフと笑う荻野。「そう言うと思ってたよ。荻野ヒロシ、覚えてる?君が幼い頃住んでいたアパートの近所の新聞屋。そこで住み込みで働いていた学生。」「ええ。もちろん覚えてます。」「俺の弟。驚いた?」・・「ええ。ヒロシさんにはよくかわいがってもらったし、大好きでした。」「らしーね。」「お元気ですか?ヒロシさん。」「死んだよ。殺された。撲殺だ。寺田と同じようにね。」荻野の目はするどく風太郎を見据える。「えっ?」驚く風太郎。そして・・泣き崩れた。「そんな・・どうして!ヒロシさんが殺されるんですか!?あんないい人!」風太郎は荻野の肩を掴み揺さぶる、泣きながら。「君が施設を脱走した日に殺されたんだヒロシは!僕は君が犯人じゃないかなって思ってるんだ。ずっとね。」「だから・・どうして僕が殺すんですか。」「それは僕の方が聞きたいね!」荻野は風太郎の手を跳ね除け、「今日はそれを言いにきただけ。また。」荻野は帰りながら相棒に言う。「見たか?あいつの目。傷のないほうの目だよ。あいつだ、あいつだよ。あいつがやったんだ。」
道を歩いていた風太郎は、飲み屋を追い出されて袋にされているひとりの男と遭遇した。無賃で飲み明かしていたどうしようもないその男は・・健蔵だった。「おっ!?おい!風太郎じゃないか?でかくなったなあ。待てよ、お父さん今ちょっとお金なくてな、たいした金じゃないから。」・・・あいかわらずだ。この男は昔と何ひとつ変わってない・・。「いえ。こんな人知りませんよ。頭おかしいんじゃないですか?」苛立ちと切なさ、悔しさ。アパートに帰ってきた風太郎は心をかき乱されていた。飲んだくれて暴力、金の無心しかしないような父親も、ランドセルをプレゼントしてくれたやさしい笑顔。そんな家族三人の穏やかな時間もあったのだ・・。「こんなもの!!」畳の下にある札を掴み、思わず叫ぶ風太郎。
風太郎は突然三國邸に呼び出された。茜の話相手になって欲しいと緑に頼まれる。それは、風太郎にとって転機にほかならない。茜は普段から緑にも父親・譲次にも心を開かなかった。そんな茜が風太郎を家にあげて欲しいと頼みこんできたという。緑は賛成するが、譲次は風太郎の風貌をみて拒否を起こした。顔の左目に深い傷、そして異様な雰囲気を察したのかも知れない。だが・・茜は、「そんな人じゃない!風太郎さんは私達と違ってお金持ってないかもしれない。でもだから何?あの人は自分の年収より高い時計を、私のために捨ててくれたんだよ!そういう人なの!」
風太郎は茜の愛を手に入れた。それは同時に、三國の家に十分すぎるほど近づけたことを意味する。夜、造船所の船を眺め笑い転げている風太郎の姿があった。「銭のかたまりズラ。」だが、風太郎はまだ知らない。そんな三國の家に入った自分を、父親・健蔵が追い回していることに・・。

#3
風太郎は造船所の労働へと足を向ける。三國の家で生活することになった風太郎。だが、造船所での労働は続けさせて欲しいと頼んだのだ。家に入った時点で給料(茜のお守り役として)もでるという事だったのにも関わらず。ともかく、その言葉に三國譲次も多少は信用できる男なのか?と思ったのかどうか・・。茜の「いってらっしゃい。」の見送りを受け風太郎は出かけた。茜は風太郎の事を信頼し、そして愛していた。((風太郎も自分を愛してくれている))と茜も信じている。茜の表情は今は明るくそして穏やかだ。だが・・風太郎の茜に対する目は時折冷たく光るのだ・・。茜はそれに気づいていない。
労働者達が不当に解雇されたというデモが道の途中で行われている。風太郎もビラを渡されるがそれを受け取らない。思わずビラを渡した男が風太郎に叫ぶ。「同じ仲間だろ?いいと思うのか?今の格差社会をさ!?」「格差社会ですか?」ニヤッと笑う風太郎。「格差なんてずっとずっと昔からありましたよ?なかったことなんてないですよ。なくなりませんよ絶対に。貧乏人は必要なんですよ。」「おまえふざけんなよ!」「貧乏人がいなきゃお金持ちが困るでしょ?貧乏人は必要なんですよ。お金持ちのためにね。」そう言う風太郎の目は少し狂気染みていた・・。風太郎は決めていたのだ。<自分は金に勝ってやると!>寝ていてうなされ、ふと目を覚ました風太郎は、三國家に隠し持ち込んだ札束を数えて安心する。幼い頃からの環境が彼をそうさせてしまった・・。金のせいですべて失う恐ろしさを、この不当解雇された労働者の男よりも風太郎は知っているのだ。それは環境が生み出した究極の不幸な形だった・・。
今日の労働が終わり、歩いて帰る風太郎。そこへ突然後ろから覆いかぶさられた!父親・健蔵だ!「親子が会うのに理由なんているか?」「何の用ですか?あんたが家に帰るのは飲む金がなくなった時だけだ!」ふざけて絡み付いてきた健蔵に、あからさまに拒否反応を起こす風太郎。この男を許せるわけがないのだ。「そんな顔すんなよ。とりあえず風太郎?」懐をまさぐられ、持っていた札を奪い取る健蔵。「なんだよ、しけてんなあ。金持ちの家に潜り込んだじゃないのか?」!!「なんで!?」「お父さんを舐めちゃいけないよ。」「消えろ!」「おいおい、お父さんを殺す気か?」風太郎の目は殺意にみなぎっていた。「冗談やめろよ風太郎。なんだよおまえ。やれるもんならやってみろよ!父親をさ!」健蔵の怒鳴り声に挑発されたのか、風太郎の手は健蔵の首を絞めていた。場所は誰もいない路地。ここで殺しても誰もみていない。だが、そんなことはどうでもよいのだ!風太郎の力は本当に父親殺しをするほどに締め上げている・・。憎しみしか感じられない風太郎の目にあせる健蔵。<殺される!>たまらず蹴り上げ難を逃れるが、風太郎は一円玉を健蔵に投げつけていた。「銭ズラ!」風太郎はその場を去る。その目には、涙がこみ上げて止まらない・・。もし、風太郎のこの行動が異常だと思うのなら、それは幸せなことなのかもしれない・・。
健蔵はへたり込み、しばらくして笑いだした。「風太郎。おまえは一体何をして生きてきたんだ?おもしろい、おもしろいねえ。おもしろいじゃねえか!」そこへ、荻野が現れた。今の一連の出来事を見ていた荻野とその相棒。荻野は風太郎のことを遠くから見ていた。そして健蔵が現れ首を絞める場面を見てもそれを止めない。なぜか?風太郎の狂気をたしかめる絶好の機会だったのかもしれなかったのだから・・。荻野は弟を殺したのは風太郎だと疑っている。いつもは穏やかな表情しか見せず、無口な風太郎だが。((今の奴の目は))荻野はまた確信できたのかも知れない。弟をやったのは風太郎だと。
その後。荻野は健蔵に飯をおごり話を聞く。どうしようもない父親だということは知っていた。だが、こうして話してても本当にどうしようもない男だ。しかも、自分の妻が死んだことも知らなかったようだ・・。そのことを教えてやった荻野。そして自分の弟が殺されたことも。風太郎が施設を脱走したその日に!「なんか、あんな父親を持った風太郎が、ちとかわいそうになりましたよ。」その相棒の言葉に無言で煙草を消す荻野。
「そりゃ怒るわなあ、風太郎ちゃんは。」かわいそうな女だ。と妻だった女のことを笑い、「で、殺ったのか?風太郎。殺ったなおまえ・・。」ひとり健蔵の顔に妖しい笑みが浮かぶ。
風太郎の周りに色々な人物がうごめく。いつぞやの腕時計の男も、風太郎が怪しげな目的のために三國家に近づいたと勘ぐっていた。もちろん時計のことは茜がやったことを風太郎がかばったと思っている。だが、そういうことじゃないのだ。裕福な人間が富を持たない人間を下げずむのとも違う。風太郎の得体の知れない雰囲気を察知していたのかもしれない・・。
だが、暴漢に襲われた緑を助けた風太郎は信用を得る。緑からも改めて、そして譲次からも。それはいっしょの食卓に呼ばれることになったことで証明されていた。
大きなトランクを引きづり部屋に持ってきた風太郎。それを見て喜ぶ茜。これで風太郎さんはこの家にずっといてくれる!茜は感激すると同時にあせっていた。姉を守るために足をナイフで刺された風太郎さん。もし、このことがきっかけで姉と親密になってしまったら・・。茜は誕生日にお願いした。「私、風太郎さんが欲しい!結婚させてください。風太郎さんと!」茜は緑と譲次と風太郎といっしょに囲む食卓で、かわいい笑顔でそうお願いをする。
それを耳にして、下を向く風太郎。その口元は笑っていた。そして・・その三國宅の広い敷地には何かが埋まっていた・・。

#4
「結婚させてください。風太郎さんと!」茜は父親・譲次に頼み込む。緑も驚くが、風太郎はすべてを察してるように、そして説明するように話しはじめた。「それは無理だよ・・。」君のことは愛している、でも君と僕は違いすぎる、三國家の人間と自分とでは違う、名家の人間と得体の知れない自分とでは釣り合わないから・・。そして風太郎は突然土下座し、譲次に、こんなことになってしまいすいませんでした、自分はこの家から出ます!と宣言した。緑は家柄とか関係ないと言い、茜はこの家を出ると言うが、それはダメだと諭す風太郎。あまりの引き際と物分りに、譲次は言葉を失ってしまった。風太郎は三國家を出ていく。だが、振り返り三國の家を眺めるその風太郎の目は笑っていた・・。
緑はシラカワに電話する。あの腕時計の男だ。緑とシラカワは家が名家同士で幼い頃から仲がよかった。だが・・最近電話も繋がらない。シラカワは言っていたのだ、あの男には気をつけろと。だが、風太郎君はそんな人じゃなかった。緑はそれを伝えたかったのかもしれない。
風太郎はそれからしばらくして再び三國家に戻ることになる。緑が向かえにきたのだ。茜は風太郎がいなくなってから意気消沈し、自殺未遂まで起こしていた。「茜にはどうしても風太郎君が必要なんです。父も納得しています。お願いします。」頭を下げる緑。風太郎の目が笑う。すべては予定どうり!<信用を得てからじゃないと本当の意味でこの家にいる意味がない。>茜の気持ちを一旦退けて身を引いたのには理由があったのだ。
風太郎が戻り、茜の表情も明るくなった。裕福でも、顔にアザがあり体が弱い茜にとって人生そのものが憂鬱だった。だが、初めて心を許せる人間ができた、それが風太郎。風太郎との結婚が決まり、茜は幸せ絶頂だった。風太郎も茜との結婚を喜んでいる。<茜>とする結婚で喜んでいるのなら、茜も幸せになれただろうに・・。風太郎に茜の姿は、ただの金の塊にしか見えていないのだから・・。
そんな三國家に珍客が突然やってきた。その来訪者に風太郎の目が険しく曇る。健蔵!((何しにきたんだ!?))健蔵は陽気にしゃべり、譲次、緑、茜と楽しそうに話していた。風太郎はその隣でだんまり。健蔵はさりげなく風太郎のいいところをしゃべるなど、一見仲のいい親子で父親が息子の話をしているようにしか見えない。茜や緑も屈託なく笑っていた。
「なんのつもりだ・・。あの時殺せばばよかった。」健蔵は一晩泊っていくことになり、風太郎は健蔵と目を合わせるのも嫌そうに言う。「怖い顔だねえ。なんでおまえそんな風になっちまったの?しかしおまえ、よくやったねえ。」健蔵はしゃあしゃあと返す。三國家に入り込んで結婚までもっていった風太郎を褒めているのだ。健蔵は結婚を喜んでいるのではなく、三國の家に正式に加わることを喜んでいる。「でもよ、見たか?あいつらの目。」自分のことを下に見ているお高くとまった目。「腹立つわ。たまたま金持ちの家に生まれただけのこったろうが。地獄へ落としてやるよ、あんな奴ら。でだ、俺にも噛ませろよ。ふたりで全財産いただいちまうってのはどうだ?」健蔵は楽しそうに話しかけるが、風太郎は、「黙れ。」と相手にしない。ふと、健蔵が窓の外を見るとメイドの女が歩いていた。可愛らしいメイドだが、遠くから携帯の着信音が聞こえる。(なんでこんなところから?)メイドは敷地の林に入っていった。地面から着信音が聞こえる。不審に思ったメイドは地面を少し掘ってみた。!?驚愕し目をむくメイド。そこには人間が埋まっていたのだ!緑が携帯にかけている相手はやっぱり繋がらない。その相手は、シラカワだった・・!
シラカワは風太郎の算段を見破っていた。三國家に近づいたことも、暴漢を金でやとい、わざと足にナイフを刺させたことも。金で雇われたのは風太郎にビラを配っていた突然解雇されてデモを起こしていたあの労働者だった。シラカワは風太郎の身辺を探り、すべてを知っている上で風太郎に三國から立ち去るように警告をした。だが・・呼び出された風太郎は立ち去るどころかシラカワを殺害し、そしてここに埋めたのだ。あの時持ってきたトランクに死体が入っていたのだろう・・。
風太郎は札束を健蔵に投げ、ここから立ち去るように言う。二度と顔をみせるな!という意味だ。風太郎はさっさと寝てしまう。窓越しに血相を変えて走ってくるメイドの姿が見えた。こちらを青ざめた顔で睨んでいる!?札束を顔に当て、健蔵の口元に笑みが浮かんだ。
署にいた荻野の元に匿名で電話が鳴る。三國の家に死体が埋まっているという。風太郎がいることも知った荻野は何か感じるものがありそこへ向かった。三國の家に着いた荻野は令状も持たずに来たのだが、手続きを踏むと逆に情報が漏れてよくないのでは?と譲次を説得する。荻野は風太郎を一瞥し、いざ作業が始まった。
荻野の相棒がシャベルで土を掘り起こしている。それを譲次、緑、茜、荻野、メイド、風太郎が覗きこんでいた。メイドは風太郎を睨みつけている。いつか土で汚れたジャンパーを見たことがあったのだ。メイドは風太郎がやったと思っている。そして、荻野も風太郎を睨みつけていた。((寺田も、弟も、そしてこのことも全部おまえの仕業だろ!?))その風太郎のコブシは強く握られていた・・これがばれたら俺は破滅だ!・・・が、出てきたのは「バカが見るぅ」という悪戯書きだった・・。「ふざけやがって!」思わず荻野は風太郎に叫ぶ。しかし、風太郎の顔は安堵とは程遠い鬼の形相に強張っていた。風太郎は瞬間に悟ってしまったのだ、健蔵にカードを握られてしまったことを・・。

#5
三國家の敷地に埋められているはずの死体。もし死体が出てくれば、風太郎は破滅だった・・。が、死体はでてこない・・。悪戯だとタカをくくっていた譲次の顔に安堵が見える。ふと緑は風太郎を見るが、その風太郎の表情は尋常ではなかった。<鬼の形相>「風太郎君?どうかした?」「いや・・別に。」風太郎はそう返したが、顔は強張っている。風太郎は父親・健蔵に弱みを握られたことを悟り、憎悪していたのだ・・。死体が埋まっていたことを知っていたメイドのハルも愕然として膝を崩す。荻野も風太郎のことを睨みつけていた・・。証拠こそでてこなかったが、風太郎を怪しく思う人物は周りにたくさんいる。そして緑も、今回のことで風太郎に疑惑を持つことになるのだった・・。
緑は風太郎のあの顔が忘れられない。風太郎と結婚した妹・茜に思わず幸せ?と問う。「幸せだよ。すっごく。」茜は編み物をしていた。その様子は不安などは一切みられない穏やかで幸せな表情。「そうですか。それはそれは。」緑も笑顔で答えるが、やはり不安は拭えなかったのだ・・。風太郎は三國造船の社員として迎えられ、譲次つきの秘書のように常に行動を共にしていた。勉強もかかさず、日に日に譲次、会社役員達からの信用も得ていく風太郎。緑もそれを知っている。(風太郎君を信じたい)・・その気持ちからだったのだろう、荻野と会うことにする緑。風太郎のことを以前から知っているような素振りの荻野なら、自分の知らない風太郎のことを知っているかも知れないのだ・・。
三國造船に爆弾予告が入る。不景気になるとこういう悪戯が多くなるものだ。だが、一応会社建物から人々は非難を余儀なくされる。その混乱のさなかで、風太郎は爆弾予告をしたであろう人物を見つけた。遠くからひとり呆然とこちらを見ている男がいる!その男に見覚えがあった。つい此間までいっしょに造船所で働いていた男だ。
風太郎はみんなが混乱している中、ひとりその男を捕まえる。だが、すぐに警察に通報するようなことはしない。誰もいないところに連れていき、事情を聞くことにしたのだ。聞けば、父親は借金を作り自殺、母親も返済苦で自殺、残ったのは自分だけでその自分も実は癌でもうすぐ死ぬのだという・・。家庭境遇が似ていた風太郎はこの男に興味を示したようだ。「で、気が済んだの?」「いや。・・俺が生きたって証拠を残したいんだ・・。」その言葉に笑う風太郎。金に翻弄されてすべてが嫌になったこの男を、もうひとりの自分かも知れないと感じたのだ。そして、この男も風太郎に自分を重ね合わせていた。自分はもう死ぬけど、あんたはこれからも生きていく。「何かしたいな。あんたのために。」その男の言葉に、風太郎はあることを頼むことにしたのだ。
荻野とその相棒に会うことになった緑。荻野は言う。これは警察の見解ではなく私個人としての考えです。と昔の新聞記事を見せた。それは荻野の弟が撲殺された時の記事・・。そして荻野は話しはじめる。「おそらくあの暴漢も奴の仕込みでしょう、それくらいする奴です。あなたのお友達も殺されてるかもしれませんね。金ですよ金。奴の原動力はすべて金。あなたの妹さんに近づいたのもそのためだ。」なんの容赦も躊躇もない言葉・・。緑は呆然としてしまう。荻野達が去り自分もここを出ようとしたのだが、席を立つ時にそのままよろけてしまう。それほどに緑は衝撃を受けていたのだ・・。
深夜。どこかの場所でひとり座っていた風太郎。そこへ父親・健蔵がおっとりとやって来た。「おやおや。こんなところにお坊ちゃま!」風太郎の表情に影が落ちる。「ま~たそんな顔して。助かったろ?俺のおかげで。まあ通報したの俺だけど。ギャハハハ。つーか誰なんだあの死体。ま、誰でもいいわな。」そこで健蔵は手を差出し、くれの合図をした。「ほう!金!」・・風太郎はジロッと健蔵を睨みつける。「ヘヘヘ。冗談だよ。まだあるよ。まだな。」と、風太郎の隣に腰を降ろして、これからどうするんだ?と問う。「此間さ、おまえに貰った金で温泉行ってさ、豪遊だよ豪遊。だがな、あの女将達が俺を見る目。どっかバカにしているっていうかさ。」所詮俺達は金持ちにはなれてもお金持ちにはなれないと健蔵は言うのだ。「おまえさ。今のままでいいんじゃねえの?十分なんじゃねえのか?まあ俺はおまえからちょくちょく小遣いもらって生きていくからいいんだけどさ。ネタは握ってるしな、ギャハハハ。」「・・いくら?いくら渡したら死んでくれるんだ?」!・・「十億とか。ギャハハ。」「わかった。そん時は死ねよ。」健蔵の顔が真顔になった。「・・風太郎ちゃん。親として教えてあげちゃおうか?世の中にはな、金で買えないものがあるんだよ。愛とか?友情とか。」風太郎の顔に笑みが浮かんだ。だが、その笑みは楽しさからくる笑みではない。どこか悪魔染みている。((あんたがそれを口にするのか?))そして風太郎はその場を立ち去る・・。
譲次は風太郎にとても打ち解けていた。ずっと息子が欲しかったと。最初は風太郎のことをどう思っていたかは風太郎もわかっている。だが、今は茜の婿として認めてくれて、信頼もしてくれているのだ。そして、譲次は自分の妻の墓参りに風太郎を連れていってくれた。譲次の顔は幸せそうだった。(心配していた茜も現在幸せいっぱいで、その婿の風太郎もいい人間だ。)その幸せ絶頂の最中、譲次はピストルで暗殺される。犯人は造船所で働いていた労働者だった・・そして、そのあとすぐにその犯人も自分の命を絶っていた・・。
「全部嘘なんだよ・・。恐ろしい人なんだよ彼は。」緑は茜の手を握り、そう言っていた。茜は目を見開くが、静かに姉にこう口を開いた。「それが何?そんなのどうでもいいんだよ。お姉ちゃん。」!!「どうして?」あの人の目的なんてどうでもいい・・「じゃなきゃ私なんて選ばない。人殺しだってかまわない。私はあの人を愛してるの。そして必ず私を愛してもらう。必ず。お姉ちゃんにはわからないよ、絶対。」茜の目は静かに微笑んでいた。その会話をドア越しに聞いていたハルも、愕然とするしかなかったのだ・・。
風太郎はビルから大量の札束をばら撒いている。その札を地上の人達が、我こそはとおもしろがって札を拾っていた。それを見て風太郎は大笑い。「ウワハハハ!!」そして身をよじって踊り笑いをし、また札を巻いた。何度も何度も。その顔は悪魔のようだった。「おまえらだってそうだろ?金が欲しいんだろ?」大笑いする風太郎。だが、その目からは涙が伝っていた・・。「アハハハハハッハ!!」笑いながらいつのまにか号泣していた風太郎。<俺は間違ってない>
風太郎は亡くなった譲次に代わり、社長に就任する。そして・・緑は車椅子に乗り、その車椅子を茜が押していた。緑は譲次が突然暗殺されたショックで、廃人になってしまったのだ・・。社長就任挨拶をする風太郎の顔は、悪魔の顔そのものだった・・。

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