「チェイス~国税査察官~」まとめ後編

「チェイス~国税査察官~」まとめ後編
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http://www.nhk.or.jp/dodra/chase/index.html
■四話
春馬草輔は取り付かれたようにひとつの会社を追っていた。<ライトキャスト>。妻が事故にあった旅客機をリースしていた会社、そこの会社は事故のおかげで多額の違約金を受け取っていたのだ・・。その事実を記者くづれの人間に調べさせ、さらに春馬自身も追い続けている。そのやり方は国税局の人間として、行き過ぎた行動を伴うものであった・・。「あの時墜落した飛行機はライトキャストが節税のためにリースしたものでした!」春馬の言葉に、統括官・新谷はまじまじと春馬を眺めた。新谷は熱くなりすぎる春馬のよき理解者であるが今回はさすがに勝手が違う。「・・復讐か?復讐がしたいのか?だとしたら国税局査察官として・・。」「あずかってください。」春馬は新谷に辞表を渡し部屋を出ていく。
多額の違約金は、香港にあるペーパーカンパニーのスイスの隠し口座に送金されていた。<コーポレイトインバージョン>国内で出たグループ企業の利益を海外本社につけかえ課税を逃れる方法・・。しかも檜山基一はZaiccレンタカー社長・財津と友人関係にあった。財津のデスクから出てきた事故を起こした飛行機の写真は、檜山からなんらかの理由でもらった可能性は十分にあるだろう。節税目的の飛行機だ、もともと不良品だった可能性は十分にある。だとしたら・・!春馬の目はするどく光る・・。

春馬はここのところ檜山宅を張っていた、何かわかるかもしれないからだ。と、その日は道の途中で思わぬ人物とすれ違う、村雲だ。もちろん春馬は村雲が偽名を使って自分と会っているとは知らない。春馬に声をかけられた村雲はさすがに驚く。偶然の再会に、ひきつった笑顔を向けた。考えてみれば約8ヶ月ぶりであった。「ああ・・どうも。驚きましたよ。」「やあこんなところでお会いするなんて。この辺にご用事でも?」「ああ?・・この先のマンションにクライアントの事務所があるんですよ。」「ああ。」自分は娘にケーキを買って帰るところと村雲に告げる春馬。そのケーキ屋に誘う。村雲は同意した。その時、村雲は靴底に刺さっていた石のようなものを外して投げた。薄緑をしたガラスのような石だった。春馬はそれを見届け、ふたりはケーキ屋に向かった。

ケーキ屋でお茶しながら春馬は、いつぞやの電話で愚痴ばかりこぼしていたことを詫びる。「なかなかするどいこと言われたし。」「失礼しました。」スーツ姿のふたりの男がケーキを食べながら談笑、はたから見れば会社の同僚か、取引先同士のちょっとした商談に見えたかもしれない。「あの事故で妻を失って以来・・探し続けていたような気がするんだ。」「なにをですか?」「敵かな。」「・・敵ですか?・・見つかったんですか?」「いや。」春馬は遺族同士ということもあってか、向かいに座る男にはついつい感情面の話もしてしまうようだ。また村雲も聞き上手でうまく話を誘導する。自分も協力しますと言ってくれた村雲の言葉に、元気づけられる春馬・・。完全に村雲の術中にはまっているかに見える春馬だった。が!

一見関係ない案件から、ライトキャストの関連会社ライガへ反面調査を行うことになった。多数の会社の中にライガが混じっていたのであるが、それを新谷が春馬に廻したのである。たしかに、どさくさに紛れて帳簿は見れるが・・「統括にご迷惑をかけることになります!」春馬の言葉に逆にハッパをかける新谷。Zaiccレンタカーの時にも指南役がいたと言っていたな?今回の奴と同じというなら、「そいつの顔見てみたくないか?化けの皮ひっぺがえしてやれ!」

その動きは村雲にも伝わっていた。檜山基一にスイスの口座もばれていることを告げる。「まずいじゃん!これから相続税のスキームが始まろうとしているのに・・こんなところでつまずいてたら・・。」檜山はうめく。妻になった歌織のお腹の子供は、順調に大きくなっていた。この子供を相続税のない国・カナダで産ませるというのが実は村雲のスキームの一端であるのだ。ジョニーウォン(村雲の片腕)は少し金を使ってもいいか?と檜山に問う。フカヅメという闇社会の男から、あの査察官の情報を買うだけだと村雲も檜山を安心させる。「査察の仕事にはある矛盾がある。そこを狙う。」村雲を信用してからは彼のやり方にまかせておけば心配はなかった。檜山は村雲にまかせる。

春馬は早朝、同僚・窪田鉄雄からたたき起こされた。後輩の暗い声が妙に気になる。やはりそれは悲しい知らせだった・・。新谷の汚職記事が週刊誌にすっぱ抜かれていたのである。(張り込んでいた風俗店が違法な売春行為があることを目撃していて新谷は警察に通報しなかった。新谷は店側から金を受け取っていたという疑惑がもちあがっているという・・。)
村雲は笑う。「査察が警察への通報なんてできるはずがない。売春で儲けた金も課税対象になる。利益があれば税金を取らなければならない。そこに大きな矛盾がある。査察の正義なんて税金をとるためだけの正義にすぎない。」笑って紅茶を飲む村雲。檜山もそれを見て笑い、歌織は質問する。「じゃあ今頃国税局は?」「パニックだろうなあ。うちの内偵どころじゃない。」

<消防士が火を消してる最中に泥棒を捕まえるわけがない!>春馬は査察部長次長・品田につめよる。品田も顔をひきつらせていた。「せめて統括を守ることはできたでしょう!?」春馬の叫びに品田はお茶をついで出て行ってしまった。
そう、国税局も新谷を守る証言はしたのだ。だが、新谷は風俗店から口止め料として金を貰っていたのだ・・。(その金で、息子のカードローン地獄から救ってやることができたんだ・・息子は帰ってきてくれたんだ・・)新谷はそう呻いていた・・。
後日。品田は片方の手で電話をしながら、片方の手でコーヒーに砂糖を入れていた。電話の向こうの春馬は品田の様子がおかしいことに気づく。品田の砂糖をすくうスプーンは震えてコーヒーにはまともに入っていなかったのだ。「新谷が・・死んだ。自殺したんだってよ。」その声に春馬は息が止まった。
夜中だった。ふたりは新谷の自宅に向かった。別れた女房が来ているはずもなく、帰ってきてくれたという息子の姿もなかった。賄賂まで貰って、それが何ひとつ役たってなかったのだ・・。「アホだ・・アホだよ・・。」品田はぼそっと言う。「そんな・・。」春馬は呆然とした瞬間には、品田に掴みかかっていた。「どうして今頃あんな記事がでたんですか!?自分と統括は内偵に入ってました!追い詰める寸前でした!相手はそれを妨害しようとして!いるんです!見えない誰かが!!」「やめろ!」品田は春馬の襟首を掴む。「じゃあ次はおまえが殺されるのか!?おれか!?窪田か?寝言は寝て言え!」「・・・。」春馬は泣き崩れるしかなかった・・。
新谷と同じように今度は自分の娘が家を出て行く。鈴子は学校を退学してから部屋に引きこもり、実は株をやっていたのだ。800万を短時間に稼いだ。元資金は母親の保険金。指南役は村雲だった。鈴子は村雲に接触し自分の道を模索していたのだ。最初に接触してきたのは村雲だったのかもしれないが・・。綺麗な洋服を着て大人びた娘は、「今までありがとう。」と言い残し家を出て行ってしまった・・。春馬は呆然と、だが、止めることができなかったのだ。

檜山正道の余命は残り少なかった。モルヒネで痛みを和らげて自宅療養をしていた。息子の基一と妻・歌織は出産のためカナダへ。歌織がどうしてもカナダで産みたいという願いを檜山は叶えてあげたかった。父親のことは信用たる村雲にまかせている。村雲は正道と将棋を指したり風呂に入ったりと、のんびりとした時間をすごしていた。呆けたような正道だったが将棋の腕は村雲より強い。まだまだ頭は回るのだろう。だが、巨大マーケットを築いたするどさや威圧感は到底失われていた。昔のことをよく思い出すという正道は、昔愛した女のこと話をしだした。仕事の合間によく会いに行った。だが・・「死んだ、餓死や。」
正道と村雲はその村に行く。山からの御来光を浴び、許してください許してくださいと呻く正道。それを横目に村雲は、静かに話し始めた・・。ある誘拐事件のことを・・。なぜ貧しい母ひとり子ひとりである家の息子を誘拐して、3億円もの大金を要求をしてきたのか?「お・・おまえ誰や!」正道は驚愕し村雲を見た。「おまえ誰や!」はげしく杖で村雲を打ちつける。そして自分もよろけて転んだ。そこへドン!と腕が目の前の地面に転がったのだ、義手である。村雲の左腕はなかった。「ボンか?ボンなのか?・・会いたかったで・・。」そう言う正道の顔を眺める村雲の目は、悲しく冷めていた。彼の左腕は誘拐時に切断されてしまったのだろう。犯人は知っていたのだ、この誘拐してきた少年が、資産家・檜山正道の隠れた愛人が産んだ子供だったことを・・。
これを境に正道の容態は一機に悪化してしまう。機械をつないで人工的に心臓を動かしているにすぎないまでに。そう、それはスキームを完全なものにするための処置。そして・・そのスキームは村雲自身が財産を奪うためのものだったのだ。史上最大のスキーム実行に向けて、着々と準備は進められていく。そして。歌織はカナダで出産した。

春馬はある疑惑にぶち当たっていた。あの飛行機事故の遺族覧の名前に、遺族だというあの男の名はなかった。そして張り込んでいる檜山基一の高級自宅の入り口に敷き詰めてある植木の石は、ガラスのような薄緑も混じっていたのだ・・。窪田が教えてくれた情報では檜山正道は自宅療養中であるという。笑みがこぼれる春馬。(繋がった!これは相続だ!)

檜山家から出てきた車のあとをタクシーでつける春馬。その車の女は、ある場所で男と会っていた。男は・・村雲だった!「あなたの子よ、名前はヒカル。」歌織の顔はとても穏やかで、いままでのギラついた感じはなかった。だが・・春馬のするどい眼光は、村雲の姿しか凝視していない。ついに見つけたのだ。因縁の探し続けていた敵を!


■五話
「あなたの財産は僕が全部いただく。アホこいたら、頓死や!」村雲修次は、横たわる檜山正道にそう囁いていた。その憎しみのこもった言葉に正道は必死に手を伸ばそうとする。だが・・もう体は動かない。正道は機械に繋がれ、その心臓を人工的に動かしているにすぎない存在に成り果ててしまったのだ・・。
自分が見捨てた愛人とその息子・・こういう形で自分の前に現れたその愛人に産ませた息子の正体と目的を知り、正道は一気に病状を悪化させてしまったのだ。

春馬草輔はひたすらに情報集めに執着していた。記者くずれに裏情報を調べさせ、その情報を元にその男の過去を調べる。<村雲修次>そして春馬は突き止めていた、妻を死に追いやった男・村雲の過去を。

なぜ奴の左腕が義手だったのか?そのことすべてが奴・・村雲の過去を物語っていたのだ。(男児、左腕を鉈で切断される)(身代金が用意できなかった事により犯人が逆上)澤村吉弥は誘拐され人質になり、のちに無事保護された。だが、命に別状はなかったものの、警官が踏み込んだ時には左腕を切断されて発見されたのである。犯人はその時射殺された。
澤村吉弥・・彼が村雲修次の本当の名なのであろう。もっとも、自分と会っていた時は遺族と嘘をつき、肩書きも名前も違っていたが・・。春馬は顔をしかめた。これで奴が闇に取り込まれている理由がわかった気がした。何も信じてないのだ・・母親・文子は餓死した。父親の無情で片腕を失い、母も失った。その後も、想像もできないような境遇だったのかもしれない・・。すこしづつすこしづつ、村雲の心は閉ざされ、憎しみと復讐心を増大させ、駆り立てていた。持っていた才覚が逆に、それを加速させてしまったのだろう・・。

檜山正道の資産は6000億。この莫大な金額の不動産資産を除く5800億にかかる2900億円の相続税を回避する村雲の最大のスキームが発動する。まず5800億で株を購入、ボリビア政府のリチウム採掘会社の株を買い、意図的にその株価を100分の一にまで下落させる。地元マフィアに依頼し、火災事故を起こさせるのだ。株価が下がりきった所で正道の命を繋ぎとめている機械のスイッチを切る。死亡相続としてのタイミングで納税額は29億円。そしてまた株価はすぐに元の価値に戻るので、そのタイミングで贈与税のかからないカナダで出産した歌織の子、光に贈与する。その株を売り、手に入った大金はヴァージン諸島で作った光名義の口座に振り込まれるという筋書きだ。29億を差し引いた5771億が丸々残るということになる。この数字は多少前後するとしても、ほとんど損失ゼロで日本の相続税を免れることができる。火災事故での採掘場のダメージは、生産的損失はたいしたことないと判断されるだろう、情報操作と事故後の投資で株価は元に戻せるのだ。
そして村雲の相棒・ジョニーウォンの働きはうまくいき、地元マフィアは絶好の場所で火の手をあげることに成功したようだ。村雲はPCに表示される株価の動きを目で追い、下がり続けるのを確認していた。

「止めろ。」村雲の電話で檜山基一は、自分の父親の命を繋ぎ止めるスイッチを切った。檜山は悲しい目で医師達が父親の繋がれた機械を操作しているのを眺めていた。相続税を逃れるためとはいえ、こんな機械で命をつなぎとめていたのだ、これで安らかに・・と思っていたであろう檜山。対照的にすべてを事務的進行させていく村雲。リチウム採掘場の事故も犠牲者がでないように計らうということらしいのだが・・。思わず聞いてしまった、「村雲さん・・あんた親父いる?」村雲は笑ったのだ。「いるよ。」

村雲達最大のスキームは開始された。その余波で思わぬ被害をこうむった人間がいた。春馬鈴子である。彼女のやっていた株はこの採掘場事故で下落が進行、あちこち取引していた株価が軒並みに真っ逆さまに落ち込んでしまったのだ。鈴子はあれ以来、村雲に指南を受けて今回も海外の市場を開いていた・・。もう、この損害を取り戻す手立てはない。春馬が家に帰ってくると、鈴子が途方にくれて座り込んでいたのだ。春馬は娘の損失が村雲の思惑の内だったのでは?と思ったかもしれない。だが、妻の保険金はなくなっても、こうして娘が戻ってきてくれた。そのことのほうが春馬にとっては大切なことだった。すべてを失って鈴子も我にかえったのだろう。母親が死んでどうしようもない悲しみを父親にぶつけて、はけ口を株に求めた。自立してひとりで生きていく・・でもこのやり方は早急すぎて、間違っていたのだ。「お父さんと・・お母さんの話がしたい。」「そうだな。お父さんも鈴子とお母さんの話がしたい。」ふたりはようやく家族としての絆を取り戻せたのだ。(・・村雲。俺はおまえとは違う。)

村雲はジョニーウォンを失った。彼はマフィアとの取引の際、トラブルを起こし命を狙われた。うまく姿をくらますことに失敗したのだろう。日本ボケしていたね。と言うウォンは電話の向こうで笑う。「修次・・。楽しかったね・・」村雲はさすがに狼狽し、「戻って来い!」と叫んだ。だが・・ウォンはそのまま銃で自殺を図る。「さよなら、朋友。」数々のスキームを実行するのにウォンはいなくてはならない存在だった。村雲にとって友と呼べるのは彼だけだったのかもしれない・・。「修次・・。」歌織は村雲のさびしそうな背中に声をかけた。「ヘマしやがって・・。」

ボリビア政府のリチウム採掘会社の株価は元に戻りつつあり、そして戻った。檜山は会社のデスクで携帯をかけていた。「ついに戻したね。総資産5800億だよ。もう現金化する手はずはすんだ?俺達勝ったんだね。じゃあ連絡待ってるよ。シャンパン用意しておくから。」檜山は村雲の留守電に電話していたのだ。だが、あとで気づくのだ、檜山は自分がまんまと出し抜かれていたことに。すべては村雲に持っていかれていたのだ・・。

空港では村雲と歌織、そして赤ん坊の光の姿がいた。場内アナウンスでふと眉をひそめる村雲。澤村吉弥の名が呼ばれていたのだ・・。「澤村文子様がお呼びです。」ハッと顔を上げ外に飛び出した。待っていたのは春馬だった。

近づく村雲の腕をガッ!と掴む春馬。「ちょっとお話ししませんか。」「査察に拘束する権限はないはずだ。」「やっと本音が話せるようになったな。」「ずいぶんと遅かったな。あんたに用はないよ。」村雲の皮肉に春馬は返す。「上司は自殺した。娘は株で保険金を失った。」春馬は村雲の顔に、事故飛行機の写真を鼻面手前に押しつけた。「これは誰だ?だれなんだろうな!」「・・・。」村雲は無言で背を向け、立ち去ろうとした。「澤村吉弥!澤村文子は生きてるぞ!おまえの母親は生きているぞ!」春馬は独自に奈良の田舎を調査し、そして驚くべき事実を知っていたのだった。「居場所を教えてやる。戻って来い。おまえの母親の居場所を教えてやる!」振り向いた村雲の顔は怒りでゆがんでいた。「・・おれの母親は死んだ。おまえの妻も死んだ!・・今はただの灰だ!」背を向け歩き出す村雲。「・・俺はどこまでも追うぞ。」憎しみをぶつける村雲の遠ざかる背中に春馬はつぶやく。まだチャンスはあるはずだ・・。


■最終回
ヴァージン諸島のどこかの島。そこの野外で、ちょっとしたパーティが行われていた。豪華な食べ物、酒、なにより景色が日本とはまるで違う。海の色も綺麗に澄んで、生えてる木々もラテンアメリカのそれ、日差しと風はカリブ海の匂いを感じさせてくれた。
このパーティの主役・村雲修次は、白いスーツを身にまとい、銀行の頭取と会話していた。妻である歌織と彼女が抱く赤ん坊・光を頭取に紹介する村雲。光は皆の注目を浴び、人々からカリブの王子様と呼ばれ騒がれる。頭取が光を抱いて頬にキスをした。歌織は光をだっこし直し抱きしめる。その表情は硬い・・村雲を睨み、そして視線をそらした。

パーティが終わり、自宅に帰ってきた村雲と歌織、光。そのコテージは島の高台にあって、木々と海が一望できる絶好の場所であった。テラスに座り、酔いを醒まそうとしてグラスに水を注ごうとする村雲の顔は、どこかヤケになっているように見える。
「どうして光をあんな場にいさせなきゃいけないの?」「あ?」「仕事の話にどうして光の名前がでるのか聞いているの?」歌織の質問に苦笑する村雲。「今の5000億は光の名義なんだ。必然と・・。」「このままじゃ光はいつか知るわ。自分が脱税のために生まれた命なんだって・・。いつかあなたみたいな人間になって、あなたを恨んで復讐しようとするかもしれない。あなたや檜山正道のように・・。」「ならないさ!」「だったらどうして光を抱こうとしないの!?いまなら間に合う!光の名義を外して国籍も日本に戻しましょ!?」「なに言ってるんだ?」薄く笑う村雲。目はどこを見ているのか焦点が合っていない。「そんなことをしたら贈与税が。」「基一に返せばいいじゃない!どのみちお金はあなたを救ってくれなかったんだから。」「・・・。」「檜山正道も死んだわ。あなたの復讐はそれで終わったんじゃないの?まだ何かあるの?・・どうしてなの!?」
歌織は村雲が自分と光のことをこれからも見ていくことはないと悟ってしまったのだ。すべてが終われば家族として安らかに暮らしていける、そう思っていたのだろう。だが・・村雲は復讐が終わっても、莫大な金を手に入れても、光という息子ができても、何も変わりはしなかった。むしろ歌織の目からは復讐後の村雲の姿のほうが、病的に写っている・・。たしかに自分も、光が生まれて変わったのかもしれない。だが、歌織は普通の幸せを望む母性の強い女でもあった、川島圭介との暮らしの時のような。今の村雲にそれは望めそうもない・・彼は地下室を作り、時にそこに閉じこもっているのだ・・。

春馬草輔が多摩の税務署に移動になって一年が過ぎた。独断で村雲のことを調べている内、国税局の人間としてそのやり方は暴走していた。記者くずれの人間に金を渡して調べさせたりもし、春馬は一線からは遠ざけられ、左遷させられたようなものだった。
だが、元いた東京国税局の窪田鉄雄は、春馬の意志を汲み取り、独自に進めてライトキャストのスイスの隠し銀行を内偵していてくれた。だが窪田は言う、これだけだと檜山基一しか挙げられない・・村雲には届かない。だが、春馬は窪田に教えた。ある種を村雲に撒いておいたことを。<奴の母親は実は生きている>その情報をいつか聞きたいために自分に連絡してくるはずだと。そして・・ついにかかってきた。無言の非通知電話が!
「でてこい。居場所を教えてやる。」「・・その必要はない。俺は知ってるよ。知ってるんだ。」「村雲!村雲。」電話は切れる。だが・・一年ぶりの接点だった。これは何か村雲の身に変化があった予兆なのかもしれない。春馬はまだ望みを捨ててはいない。決着をつける!

村雲が地下室に足を向けると、なにかの音声が聞こえてきた。歌織が古いビデオテープを再生させていたのだ。そして、古い写真立てを見て驚愕している。「部屋に戻ろう・・。」村雲の言葉を打ち消すように歌織は言った。「・・わかったの。あなたのしてきたことは復讐じゃなかった。檜山正道にも檜山基一にもなんの罪もなかった!あなたを誘拐したのもあなたの腕をそんな風にしたのも!」「だまれ!!」「あなたは間違ってる!!」

この後。ヴァージン諸島の銀行から檜山基一の口座に送金が確認される。なんの偽装もない今までの村雲のやり方とは到底思えないものだった。やはり、村雲の身辺になにか起こり始めているのだろう。この金の流れでライトキャストに着手することができる。今回特別に春馬を呼び寄せた東京国税局次長・品田は、村雲との繋がりを挙げてこい!と激を飛ばした。

空港。歌織は光を抱いて歩いていた。どこかに旅立つようだ。そこへ村雲が待ちかまえていた。送金の事実を銀行から電話で聞いたのだろう。すべては歌織がやったことだというのはわかっているのだ・・。「どこに送金した?」「基一に返したわ。・・ねえ修次。始めからやり直すきっかけは目の前にあったのよ。希望はすぐ目の前にあったの。」村雲は無言で光に手をのばした。光は笑顔で手を伸ばし、指を絡めてきたのだ。ハッとする村雲。「ごめんね・・。」歌織は光を抱いて村雲の脇をすり抜け歩いていく。それを眩しそうに目を細めて村雲は見送った・・。眩しい・・。

そして日本。檜山基一宅に春馬、窪田らの査察のガサ入れが始まった。うらめしそうに檜山は春馬に言う。「・・俺は被害者だ。」「税法上はあなたが首班だ。」「あんただってそうだろう?村雲の被害者だろ?あの飛行機が墜落した時、あの男は電話の向こうで笑ってたんだ、笑ってたんだよ!?」「・・・。」

そのあと。春馬は歌織に頼まれる。(彼を助けてください)「彼は怒りや憎しみであんなことをしていたんじゃなかったんです。ただ褒められたかったんだって・・。」「誰に?」「それは・・本人に聞いてください。」歌織は村雲の居場所のメモを春馬に渡した。

春馬は娘・鈴子がアイロンしてくれたスーツで旅立つ。「気をつけていってきてね。」鈴子は母親の遺品であるマフラーの一部をスーツの胸元の裏地に縫い付けてくれたのだ。自然と笑顔と力が沸いてくる。春馬はヴァージン諸島に向かった。
その頃。ライトキャストのガサ入れで押収した物の中から窪田は、村雲との接点のデータを発見していた。喜ぶ品田!だが、その直後、檜山に送金された金のすべてが消えてしまう!村雲は作った口座すべてをいつでもコントロールできるよう二重名義にしてあったのだ・・。

村雲の住んでいるコテージに着いた春馬。なんて豪華な家だろう、家の中にも木々が装飾され、水まで足元に流れている。ふと、その嗅覚で春馬は地下室に気づいた。降りていくとそこは異様な場所だった。金の隠し場所としてだけではないのだろう・・何か別な意味があるのかもしれない。・・澤村文子が偶然写っているテレビニュースの映像ビデオが意味もなく流れていた。「・・・。」カチャリ!頭の後ろで銃の激鉄の音が聞こえた。村雲が銃を突きつけているのを感じながら春馬は言った。「おまえを誘拐させたのは母親自身か?」「ええ。」「檜山正道から金を奪い取るための自作自演か?」「ええ。」「おまえの腕を切り落とさせたのもそうなんだな?」「ええ。」「おまえは偶然見たニュースで母親が生きていることを知り、なにもかもわかった上で檜山家を落とし入れた。・・なにがおまえをそうさせた?母親に褒められたかったのか?」「・・・。」瞬間!春馬は振り向きざま村雲を掴み、壁に叩きつけていた。そして殴りつける。床に転がった村雲の胸倉を掴んで、さらに顔面をこれでもかと殴り続けた。だが、村雲はうなり声を上げ、春馬の顔面に腕を振りかぶる。そして、転がった春馬に蹴りを何度も食らわせた。春馬は気絶し、気がついた時には腕と足を紐で結ばれ、村雲が地下室中にガソリンを撒いている姿が目に入った。

振り向いた血だらけの村雲は、再び床に転がる春馬に銃を突きつけた。「ここに現金で5億ドルある。俺を逃がしてくれたらあんたにやるよ。国税の犬には一生かかっても手にできない金だよ?」ブッと血を口から吐き出す春馬。「撃て。撃ちゃいいよ。そうだよ・・俺は犬だよ、地べた這いずり回って国民から税金いただいて生きてる犬だよ。だがな・・犬にも習性ってもんがあんだよ?いいか?一発でしとめねえとその首根っこ食いつくぞ!一度食いついてら離さねえ!ほら撃てよ!」ドン!村雲は外した・・。「あんたは・・幸せな人だな・・。」村雲はジッポライターを出して火を点けた。そして春馬を地下室の扉の外に放り出す。

「こんなことしてなんになる?」ライターの火を見て春馬は言った。「なんにもなりませんよ。」村雲は笑っていた。「おまえが絶望しているのは母親だ。」「違いますよ、春馬さん。僕は絶望なんかしていない。生きるために子供の手足を切り落とす母親なんて、切り落とされる子供なんて世界中に大勢いる。僕は絶望なんてしていないし、誰も恨んでいない。ただ・・もうひとつの人生を想像してしまうんですよ?・・抱きしめられる子供と腕を切り落とされた子供に、どんな違いがある?・・いくら想像しても違いが・・わからないんだよ!!だから希望を持ってしまう、ありえたかもしれない人生に・・希望を持ってしまう。ねえ・・ねえ?春馬さん、そう思いませんか?人を狂わすのはそういう希望なんだ・・。眩しくて眩しくて目を細めて見つめる希望の灯なんだ・・。」村雲はライターを落とす。火の手が上がった。そして・・扉は閉まる。

春馬は必死になって扉を開けようとした。手足の紐をとろうとする。そこへ上から車のエンジン音がした。(奴はここでの証拠をすべて燃やして逃亡する気だ!)驚くべき執念で走り出した春馬。車が走る目の前に踊り出るが一歩間に合わない。「村雲!」だんだん小さくなって遠ざかる車をひたすら走り追いかける春馬。村雲は必死に車を走らせていた。どこまでもあの男は追ってくるだろう・・。と!そこへ正面ガラスに赤いタオルが張り付いた!偶然飛んできたのだ。村雲の視界は赤い色一色になり何も見えなくなった!

走り疲れ道路に横たわる春馬。スーツの上着を握り締めていた自分。ふと、縫い付けてあった妻の赤いマフラーの一部を見た。自然と笑いがこみ上げてくる。遠くに煙が上がっていた・・。車が横転して今にも爆発しそうだったのだ。車に取り残されていたのは村雲!
「俺は一発殴りたかっただけだ。こんなことは望んじゃいねえ!」(人間が大好きな赤鬼が、青鬼の知恵を借りて人間と仲良くなった。だが、今度は青鬼が人間から山を追われてしまう)「おまえも俺も、あの鬼達と同じだ!愛されたくて泣いた赤鬼だ。それでも!生きるしかない!生きるしかないんだよ!」春馬は必死に車から村雲を引きずりだす。春馬が助けなかったら・・車の爆発に巻き込まれていただろう。「・・春馬さん・・母は、母は元気だったか?」「ああ。」「そうか・・。」「・・日本に帰ったら母親に会いに行こう。長い付き合いになる。一日くらい寄り道してもいいだろう・・。」村雲は春馬の度量に驚愕しつつも、感謝せずにいられなかった。

傷だらけの男ふたりがともかく日本の空港に戻ってきた。あまりに傷だらけなので人々から不審な目で見られている。だが、ふたりにはそんなことも笑えるのだ。
トイレから戻ってきた村雲は、だいぶ青ざめていた。ふたりは車で澤村文子の住んでいる家に向かう。だが着くなり村雲はおじけついた。「・・俺ここで待ってるから行って来てくれないかな?」「何言ってんだ?自分の母親だろ?」「会うのが怖いんだ・・怖いんだよ。・・これを渡してくれないかな。もし、いらないって言ったらあんたにあげるよ・・。」村雲が渡してきたのは村雲が幼い頃に彫った木彫りのバラだった。

澤村文子が住んでいる家は豪邸と呼べるものだった。バラが庭にあちこちに咲いていて、文子は水をやっている所だった。バラが好きなのだろう・・。春馬に気づき会釈してきた。春馬も返す。木彫りのバラを渡し、春馬は言った。「彼はすぐ傍まで来ています。ただ怖がっているというか照れているというか。もしよろしかったら文子さん、あなたのほうから。」「人違いでしょ?これはお返しします。」「いや・・。事情があるのはわかります。ですが!ただ息子さんの気持ちをあなたに・・」「私に息子はおりません。」「!・・そんなこと言ったら、あいつはいつ救われるんですか?何をすれば救われるんですか?!」その時、家から娘の声で母親を呼ぶ声がした。文子は無表情で家の中へと戻っていく。春馬は涙がでてくるのを必死でこらえながら、その非情な後姿を見送っていた。文子は村雲が施設にいったあと、実は地元の警察の人間と恋仲になっていた。今は署長らしい。どうやら裏でかなり賄賂をもらっているという嫌な噂も聞いた。文子が餓死したと嘘の手紙を出したのはその男だった。檜山正道と村雲はその手紙を読んで、文子は死亡したと思ったのだ。文子は過去を全部捨てて生きていた・・。

車に戻ると村雲の姿がない。少し離れた公園のベンチに腰かけていた。そこへ歩き出す春馬。「お母さん受け取ってくれた。涙流して喜んでくれたよ。できることならおまえに会いたいって・・。」ベンチまで行くと、村雲は腹を真っ赤にして座って死んでいた・・。
空港では手を真っ赤に染めた檜山基一が椅子に座っている。警官が近づいてくるその後ろには、仲よさそうな兄弟が楽しそうに遊んでいた・・。

木彫りのバラが春馬の手の中でふたつに割れる。中からメモがでてきた。それは村雲の隠し口座などの情報が載っていたものだった。春馬の表情は無だった。ただ、かかってきた品田の電話には淡々とその数字を報告する。「・・名義は澤村文子。権利者は・・死亡。」だが、いつしかその目は涙で充血していたのだ・・。

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