「JIN -仁-」まとめ後編

「JIN -仁-」まとめ後編
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http://www.tbs.co.jp/jin2009/
#9
仁は写真を見て驚愕していた。自分と未来が写っているはずの写真、だが!未来の姿が消えかかっているではないか!?(これは・・なにが原因なのか??)仁はわからない。仁友堂では、医師達の面々が新たな手術道具を作成してくれたり、咲が常に助手として傍らにいて支えてくれている。確実にこの幕末で医術の進歩の針は進んでいた。今まで医術の針を進めることが、未来の命を救うことだと思っていた。だが・・未来(現代)の未来が消えかかっているのはこのせいなのだろうか・・?事あるごとに写真を眺めている仁の後ろ姿を、咲は見つめていた。
町で仁と恭太郎、咲の3人が茶菓子屋でお茶をしていた。新しい医術道具を掴み、ものめずらしそうに仁に質問する恭太郎。だが、仁はやはり上の空だ。・・呼吸が止まってしまった人に、一時的に空気を送り込んで、呼吸を助ける道具です。と説明する仁。火事場とかで使うと言ったとたん、「そんなおもちゃでなにができるっていうんだよ。」となりでお茶していた気風のよさそうな中年が渋い顔で言ってきた。周りには若い衆が取り巻いている。傍からみれば、大工の棟梁か、はたまたヤクザか。。「おもちゃにみえるかもしれませんが、おもちゃじゃないんです。」仁は穏やかに説明しようとした。「おまえ医者か?火事場にきたことあるのか?」「・・いえ。」「ほらみろ。人助けとか言って偉そうなこと抜かしやがるが、俺は火事場で人助けしてる医者なんて見たことねえぜ。千両箱担いで、仏さん踏んづけていく医者なら腐るほど見たけどな。」「・・そういう人もいるかも知れませんが・・」「江戸を火事から救ってきたのは火消しの度胸と心意気だ!医者なんて奴らにはそんなものねえって言ってんだよ!」「・・・」仁は意外と頑固者である。。こんなこと言われて、引き下がれないし聞き流せない性質なのだ。立ち上がってその中年に言っていた。「流行病から江戸を救ったのは、医者の度胸と志だと思います!」言っちゃったから、仁は火事が起きたら必ず来い!と因縁をつけられてしまったのだ。。「逃げんなよ。」そう言って笑って去っていったのは新門辰五郎。を組の辰五郎。泣く子も黙る辰五郎親分たあ奴の事。。火消しだが喧嘩仲裁、一橋慶喜とも翻意で、上洛時には警護を任せられるなど、配下3000人を引き連れた大親分なのだ。こんな約束しなければねえ・・。。
帰ってくると、橘栄の笑い声が玄関まで漏れてきていた。気難しい栄がここまで気を許すなんて、どこの誰が来ているのか?と思えば坂本龍馬だった。この間、暗殺されないで欲しい!と強く願って心配してみたが・・どうやらそんな雰囲気は微塵も感じられない。仁に用があるようで、ふたりきりになると興奮して話かけてきた。どうやらペニシリンを売りたいらしい。「あれから考えたがじゃ!薬とその使い方を説明して、この国とゆくゆくは海の外にも売れば、仁友堂も潤うだろし、その仲立ちをすれば海軍塾も潤う。一石二鳥だとは思わんかえ!」「・・そうかもしれませんが、龍馬さん、近いです・・。」龍馬は興奮しすぎて仁の鼻面に自分の顔を寄せすぎていた。。しかし史実、坂本龍馬は海軍塾廃止以降、薩摩に身を寄せた際に資金援助を受け、亀山社中という貿易結社を作り、のちに海援隊となる日本初めての株式会社を設立することになる。幕府との海戦では実際に長州側に参加し、海戦を勝利で収めた。幕末最大の課題、薩摩と長州の同盟がうまくいった要因としても、彼らの貿易行動がその仲立ちになった功績は大きい。仲の悪かった薩摩と長州が同盟したことにより、対幕府の力がまとまったといってよいだろう。龍馬の考え方では、対抗勢力を作り、未曾有の戦争を防いで革命を成功させようとする思惑があったのかも知れないが・・史実は戊辰戦争という激しい内乱を呼ぶことになる。革命する側としては、倒したはずの勢力が大きな力も持ったまま存続するなんてことはあってはならないのだ・・。龍馬は戊辰戦争を知らずに暗殺されてしまうのが史実だが、それは龍馬にとって見たくないものを見る前に死ねたと解釈すれば、一番いい時に最後を迎えられたということになるのかもしれない・・。
「金ばかりじゃのうて、戦わずしてこの日ノ本をひとつにすることもできるがじゃ!」志士達は密談を遊郭で行うことが多いため、そう毒にかかった連中も多い。どうせそう毒で死ぬのなら斬り死と考えている志士にペニシリンの価値を教えれば無謀な考えを捨てさせ、過激な行動も抑えられるという寸法だ。史実は、たしかに攘夷・倒幕派の志士達は過激な行動に走るもの達も多く、優秀な幕府の人間がたくさん斬られた。そういうことが抑えられれば、開国派と攘夷派は歩み寄ることがたしかにできるかもしれないが・・。「そんなことしたら歴史が・・。」「あ?歴史がなんじゃ?」そこへ咲が手紙を持って入ってきた。野風からの手紙らしい。仁にひとりで来て欲しい旨が線の細い綺麗な字で綴られていた。「・・いってらっしゃいませ。」咲は笑顔で仁を送りだした。野風の気持ちを察しているのかその笑顔は、どこか儚げだ。仁は吉原の鈴屋に向かう。が、なぜか龍馬もいっしょに同行することになってしまった。。仁ひとりでって言ってたのに~(泣)
鈴屋に着いて案内された部屋、そこは豪華絢爛!遊郭達と芸者、豪華な料理!まさに仁をもてなすための一夜の華。野風は、この前の50両を使ってこの催しをこしらえたらしい。それは自分自身のためであったのだ。「お会いしても医術のことばかり。一度くらいは他の話も、してみとうありんした。」野風はすまして仁に言う。仁は慌ててしまうが、龍馬はすでに部屋に入って酒を飲み始めていた。。となりで居心地悪そうにしている仁を、そっと眺める野風。龍馬は三味線の音に合わせて大騒ぎしていたが、野風の薬入りの酌で眠ってしまって退場。。仁はお手洗いと称し席を外した。南方大明神のお札を握り締めながら、「・・一度だけでありんす。咲様、お許しを。」野風は心に決めた。
仁が戻ってくるとさっきの宴会はすでになく、別の部屋へと案内された。襖を開けて仁の目に飛び込んできたのは、真っ赤な寝床と鏡の前に座っている野風だった。「・・そこはお寒むうござんしょ。どんぞ・・。」その声で寝床の端に座り、「・・今日はご馳走様でした。もう遅いのでそろそろ・・。」と仁は笑顔でこの場を逃れようとする。「この嘘つきと思われておりんすか?けんど、先生も嘘つきでありんしょう?この世の人ではないのに、この世の人のふりをしておられんす・・。」「どうして・・。」「なんとなくでありんす。先生はどこかあちきと似ているような気がしていたんした。ここは・・すべてを嘘で塗り固められた城でありんすゆえ。」野風の横顔は寂しげだった。「先生はいずれ咲様とごいっしょになるおつもりで?」「いやあ。そんなこと言ったら咲さんに怒られますよ。私は咲さんの父親みたいな年だし。そもそもなんとも想われて・・。」「では。心に決めたお方でも?それは・・どのようなお方でありんすか?少しだけ・・お聞かせくださいなんし。」野風の目は力強くも潤んでいる。仁は感じていた。未来と野風・・ふたりは姿だけじゃなく心根までそっくりだということを。(強気なところ、頭がいいところ・・弱いところをみせないけど、そこまで強くなくて・・)「その方の名はなんと。今宵は、あちきをそう呼んでおくんなんし・・。」野風の手は仁の頬に触れ、その顔は仁の目の前にあった。「それなら・・不実にはなりんせん。」野風はソッと仁にくちづけをした。「仁先生・・。」もはやその声は涙で震えている。仁は思わず、野風を抱きしめていた・・。
仁の手が野風の胸元に触れる。「脈が・・速いです。」その仁の手を掴んで、「どんな嘘つきでもこれだけは嘘はつけんせん。この音があちきの真でありんす。」野風は言って目を閉じた。その頃。咲は眠れぬ夜を過ごしていたのだ。医術道具を熱心に点検している。そんな妹を心配し恭太郎が声をかける。「先生は場の雰囲気に流される方ではないと思うが。」「・・流されるのでありません。元いた所に、戻っていかれるのです・・。」
横になった野風の上に体をあわせる仁。<!!>野風の枕元に写真がいつのまにか落ちていた。その写真の未来の姿は、消えかかっていたのではなく、また本来の姿になっていたのだ!「これは・・!?」仁は野風から飛びのいてしまったので、野風はびっくりしている。。しかも火事を知らせる鐘の音がどこからか聞こえてきた。仁は涙目で土下座していた。「野風さん。すいません!帰ります!」「!あちきが!汚れた体でありんすからか!?」仁は必死になって火事場の手当てをする約束をしてしまった。と説明した。そうだ、たしかにそうなんだけど・・。野風のここまでの気持ちをそでにしちゃうか仁!(泣)「・・せんないことでありんすな。それが南方先生でありんすから。どんぞ。」襖を開ける野風。走り去る仁のあとに残された野風の表情は、どこか呆けて悲しそうだった・・。据膳食わぬは男の恥という考えもありますが・・大切だからこそ簡単に食えないという男心もありんす。という解釈で納得したいね・・。
火事場での治療は大変なものだった。だが、咲、山田純庵、佐分利裕輔ら仁友堂の面々の活躍と手際はすばらしい。新門辰五郎も仁達の心意気を認めた。本道・医学館の福田玄考も漢方で直せるものは自分で。と助太刀に来ていた。仁の治療場まで火の手が迫る。だが、仁達はその場を離れない。すべてが終わり、その建物から出ると、その建物以外周りすべてが燃えてしまって灰になっていた。辰五郎達火消しが、火の手の中のその場所だけ死守していたのだ。「火は消したぜ。そっちはどうでい?」「助けられました。」「医者の心意気ってのはたいしたもんだ!俺は根っからの火消しだが、あんたは根っからの医者だな!」真っ黒な顔で満面の笑顔を見せる辰五郎。辰五郎は昔、火を消すため建物を壊す際に、逃げ遅れた惚れた女性を死なせてしまったという。知らない顔の人間を何人助けようと惚れた女を殺してしまった・・「だから俺は死ぬまで火消しを続けなきゃならねえんだよ。」新門辰五郎。この男も自分なりの過去と向き合い、そして今を、精一杯生きている人間なのだ。
野風は起きてきた龍馬に話していた。「・・よいところまではもちこめんしたが、火事に負けんした・・。」「けんど・・どういて色仕掛けんなぞ?」「先生と咲様の間には医術がありんす。あちきも何か、絆が欲しかったでありんすよ・・さすれば心おきなくいけると思いましてな。」「いける?」「あちきは・・身請けされんす。聞こえはいいけんど、今度はお屋敷の中の籠の鳥になるだけのこと。」だから今までのように、仁にも会えなくなるのだ。しかも女郎は身請けの話を断ることはできない・・。龍馬は野風の心中を察して、叫んでいた。「泣きたい時は泣けばいいがじゃ!」「遊女の涙は嘘の華。色恋に涙なぞ流しては花魁の名がすたりんす!」龍馬はそんな野風を抱きしめていた。「こうすれば・・顔みえん。」「・・雪になりとうありんす。雪になれば・・いつなんどきでも先生の肩に、落ちていけるでありんしょう・・。」野風の肩と声は震えていたのだ・・。

#10
仁は突然の頭痛に見舞われていた。その頭痛で思い出す。自分がこの頭痛のあとにタイムスリップ、この時代に飛んできたのだと・・。(もしあの時、現代で手術した包帯男が自分だったとしたら、自分を自分で手術したことになる・・。そして、あの声はたしかに坂本龍馬だった・・。どういうことなんだ?)写真の未来の姿は、またさらに薄くなっていた。(ほとんど消えかかっている!)そこへ、仁に客が来た。鈴屋の廓主・彦三郎だった。
「実は野風の身請けが決まったのです。2500両で野風の身を吉原より請け出し、妾にと望まれている方がおられまして。」「2500・・。」「これ以上ないような幸運なお話でございます。」彦三郎は、身請けの前に、体のおしらべがあると説明。それを仁にお願いしたいという話なのだ。「あの夜、野風は先生との思い出を作りたかったんだと思います・・。その思い出を最後に、身請け先に行くつもりだったのかと。」「・・えっ?」「身請け先はご家紋のご隠居様でございます。身請けされたら最後、広いお屋敷の塀の中。二度と先生に会うことはできません。どうか野風の最後の望みを叶えてやってくださいませ。」「・・・」渋い顔をして何かを思う仁。
咲はここのところ、仁になにか言いたげだった。だが、なかなか話せない。いつも写真を眺めている仁には、言いずらかったのだろうか・・?結局、話題は野風の話へ。おしらべをしなければ、未来は生まれてこない可能性があると仁は言うのだ。「咲さんのおっしゃったように、写真の未来は以前より薄くなってしまったようです。ただ、一瞬だけ色の戻った瞬間というのがあって。その時というのが、野風さんが身請けを前向きに考えてくれていた時のようで。つまり・・未来は、野風さんとその身請け先の方との間の子孫で、野風さんが身請け先にいかなければ、未来は生まれないってことじゃないかと。」仁の握る写真の未来は、ほとんど消えかかっている。「・・では、今も身請け話が飛んでしまう状態にあるということですか?」「考えたくないんですけど・・最悪、自害とか。」「えっ!?あの・・私もそのおしらべに同席することはできますか?」咲は野風の気持ちを知りたかったのかもしれない。咲は、野風が仁のことを好きなのを知っている、あきらめきれるのか?と聞いてみたかったのか・・。
その夜。仁はまた強烈な頭痛に突然襲われていた。(これはタイムスリップの予兆!?)頭を抱え、仁は思う。<今このまま現代に戻ってしまったら、消えかかっている未来はどうなるんだ!?予感がする・・何もかもが、もうすぐ終わる!>
後日。野風のおしらべがはじまった。野風の左胸に微妙なしこりを感じる仁。しかし、異常はないと診断結果を出した。「それは・・まことでありんすか?」野風は少し動揺した声で聞き返す。「・・はい。」仁も、どもって返事を返した。咲はそんなふたりを見ていて何かを感じた。さっき野風は言っていたのだ。(仁のことを簡単に忘れられないから、こうしておりんす・・)そう言って左胸を押さえていた。<野風はおしらべで異常が出ることを望んでいたのでは?>
ある日。縁側で仁をみかけた。また写真を眺めている。咲は思わず言ってしまった。「・・先生はずっとそうなのでしょうね。」「えっ?あっそうだ!何か話があったんじゃ。すいません、うやむやにしてしまって。なんだったんですか?」「・・なんだったんですかって・・。私は・・。」咲は怒るしかなかった。「たいしたことではございませんゆえ、どうぞそのままお忘れください!」咲は廊下を早足でその場を去った。(野風さんと話がしたい)
坂本龍馬が野風からの手紙を仁に持ってきた。仁に話もあるらしい。いつもの神田川が見下ろせる草原にふたりは座った。手紙には野風からの感謝の気持ちが綴ってあった。<これで心おきなく身請けの日を迎えられます>「これで野風とも会えんようになるのう。」龍馬がそう言うと、仁は切なそうな顔をした。「そんな顔するき、咲殿も怒るがぜよ。他のおなごのことば~かり気をとられちょるき。ヤキモチじゃ!」「ヤキモチって?なんでですか?」仁の反応に、龍馬の笑顔は硬直する。「・・まさか先生。気づいちょらんかったがぜ?」龍馬は仁の肩をガバッと掴み、「咲殿はどういてここまで先生に親切にしてくれたと思うちょるがじゃ?」「それは医術に興味があって。」「あほう!好いちょるからじゃ!いっしょになる気はないがかえ?咲殿と?」龍馬はペニシリンの件で、後日仁につきあって欲しいと告げて去っていった。仁は呆然としていたのだ。(言われてみれば思い当たることはいくつもあった・・)
咲は野風と話したくて吉原に来ていた。野風はすべてを咲に話す。もし、胸のしこりが原因で異常と診断されれば身請け話はなくなる。自分の母親も岩が原因で亡くなったので、もしかしたら自分もそうかと。だが、仁先生は異常はないと診断したのだ。身請け話はなくならなかったのだから、自分はこのままこの話を受ける以外に道はないのでありんす・・と笑う野風。「あちきは咲様が大好きでありんすよ。」
恭太郎も咲の護衛とお供で、吉原に来ていた。鈴屋の表の女郎部屋には、初音がうつむいて座っていた。恭太郎はその姿をせつなそうに見ている。戻ってきた咲はなにやら真剣な顔をしていた。ふたりが橘家に戻ってくると、仁友堂の看板が下げられていたのだ!
「先生!咲です、入ります!看板が・・!」慌てて咲が入ると仁が医術道具を整理していた。「ペニシリン製造所に診療所を移そうかと思いまして。」「では・・もうここへは戻ってこられないということですか!?」「・・すいません。いつもいつも急で。」咲は少し間を置いて、野風のしこりの事を話題にだした。「・・もう一度見てあげてください。」仁は少しとまどった後、しこりのすべてが岩とはかぎらず、悪性ともいえないと説明。それに、自分は乳がんの専門ではない・・。「それでも!いままでは立ち向かっていたではありませぬか!?先生は、野風さんを見殺しにしようとしたのではありませぬか!?未来さんのために!野風さんは先生の命を救ってくれたお人ではないのですか!?」「・・・」仁はうすく笑った。「・・鬼ですよね・・私は。」「・・いえ。でも咲はもう・・耐えられませぬ。医術は時として心までも裸にしてしまいます。咲はもう、むき出しの心を見ておられませぬ。」咲は去ってしまった・・。(仁先生はわかっていて異常なしとおしらべを診断していたのだ・・もうこれ以上は・・)
仁は橘家を出て行く。栄と恭太郎、そして、咲も見送りに表にでてきていた。咲は昨日のことが嘘のように穏やかな笑顔で仁に弁当を渡してくれた。「南方先生。いままでありがとうございました。先生と出会い、その医術を学べたことは私の宝でございます。私にとって医術は、生まれて始めて夢中になり、打ち込めたものでした。」これからは嫁ぎ先の夫や両親、いずれ子供に、この知識を使えれば。と咲は言った。「嫁ぎ先って?」「・・縁談がきていまして。言おう言おうと思っていたのですが・・。」「・・私は咲さんの顔を見ているといつもホッとしていましたから。きっとそういう家になるんじゃないでしょうか。」仁も笑うしかない。「咲さん。お幸せに。」「・・はい。」仁はみんなに頭を下げて背を向けた。もうここ、橘家を家として帰ってくることはないのだ。その離れて小さくなる後ろ姿を、咲は泣きながら見つめていた・・。「医術ではなく、南方先生ではないのか?おまえが夢中になったのは・・。」恭太郎の言葉に、咲は言った。「先生にはおられるのでございます。その方のためになら、鬼にもなろうという方が。あのおやさしい先生を、そこまでさせてしまわれる方が・・。私の出る幕などいつまで待ってもございませぬ・・。」
仁もわかっていた。咲がどんなに自分によくしてくれ、いつも支えになってくれていたのか。野風のことも、ただ未来に姿が似ていたからというだけで、接していたわけではない。魅力のあるひとりの女性だった・・。ふたりの存在がとつてつもなく大きかったと、仁はふつふつと感じてくることだろう・・。
龍馬の頼みで、長州の久坂玄瑞にペニシリンの効力をみせる仁。龍馬は攘夷派の人間達に、本当にペニシリンを売り込むつもりなのか?頭も切れて優秀な久坂だが、長州の攘夷派の棟梁的な存在でもある。龍馬の考えどうり簡単にその考えを変えるとは思えない。「いくらで買いとれるのじゃ?」「金やない。」龍馬は言った。「おまんらは長州をまとめて、ゆくゆくは幕府相手に戦をおこそうとしちゅうがじゃろ?けど、おまんらは必ず負ける!負ける戦は、はなから止めるがぜよ。そんな暇があったら異国相手にペニシリンを売りつけ、その金で海軍を作り、異国を打ち負かすぜよ!」龍馬は不毛な内乱で貴重な国力を削ぐ道よりも、国力をどうにかつけて、それから異国と相対する道を久坂に問うた。久坂は禁門の変でその命を落とすが、この頃はまだ龍馬のような考えは攘夷派の中にも浸透していない。明らかに歴史の針は早まっていたのだ。仁は焦りを覚えた。
仁は帰り道、竹薮で龍馬に言う。ペニシリンの件はここで手を引かせて欲しいと。命を粗末にしないことを天秤にかけて過激な行動を抑え、開国派と攘夷派の仲をとり持つ。たしかに龍馬の考えは革新的だ。だが・・<これでは歴史がどうなってしまうかわからない>死ぬべきだった志士が、もし生きてしまったら?という仮説をたてる仁に、龍馬は気づいてしまった!「先生・・。もしかして先生は、わしらの運命を知っちょるがぜ!?」「龍馬さん!」仁の叫びに、龍馬はそのまま剣を引き抜き後退、背後から迫って上段を振りかぶっていた刺客を刺し貫く!気づけば、多数の刺客に取り囲まれていた!刀をクルッと回し、構える龍馬。自分がおとりになるからその隙に逃げるぜよ!と龍馬は言った。(これが歴史の針を早めたツケ・・)久坂は結局龍馬の存在を恐れて、刺客を放ったのだろう。龍馬は多勢相手にも果敢に斬り合いをする腕をみせる。龍馬は北辰一刀流免許皆伝だ!だが、さすがにあぶない!そこへ仁が後ろからその刺客に殴りかかった。「なにしちゅうがぜよ!?先生!」「龍馬さんは!こんなところで死んではいけません!」「もどるぜよ!先生!もどるぜよ!」今度は仁に刀が迫る。が、龍馬がそれを刀ではじき返した。だが!ふたりはそのまま神田川に真っ逆さまに落ちてしまった!
川から仁が浮かび上がる。「龍馬さん!龍馬さ~ん!!」龍馬の姿は消えていたのだ!

最終回
仁は刺客に襲われた龍馬に加勢し、共に崖下の神田川に落ちた。仁は傷だらけになりながらも川から這い上がる。だが・・龍馬の姿はどこを探しても見つからなかった。すぐさま捜索が開始されるが、やはりみつからない・・。「どっちにしろ海軍は当分龍馬なしってことか・・。」勝林太郎が仁のとなりでぼやく。「日本は坂本龍馬なしで進むってことですか?」「・・・そうさ。」ふたりの持つ雨傘に激しく雨が打つ。「だが先生。あいつがなくなりゃ、あいつの代わりになる奴がおのずとでてきて、あいつがやるはずだったことをやるもんさ。世の中ってのはそういうもんだと俺は思うんだよ?ま、もう少し探すさ。」忽然と消えた龍馬。仁は龍馬を心配しつつも確信している自分がいた。(龍馬さんはタイムスリップしてしまったんだ)そして。気の利く彼のこと、メディカルバックやホルマリンの瓶を持ち出して再び戻って来ようとし、自分を巻き込んだ・・。(じゃあもう自分は戻れないのか?)あれから刺客の気配も消え、日常は何事もなかったように過ぎていく・・。咲は縁談が進み、野風は身請けを間近に控え、あいかわらず龍馬は見つからない。この時代に急にひとりぼっちになったような錯覚におちる仁。写真に写る未来の姿が元の濃さに戻り、笑顔を向けているのが唯一の励みだった。<これでいいんだ・・>
佐分利裕輔が仁に話しかけてきた。岩(乳がん)の治療では彼、佐分利は花岡流で学び、免許皆伝の腕を持っていたのだ。花岡流は秘伝だが、仁友堂で共に医師として働く佐分利に隠すつもりはなかった。気がついてみれば、本道の医学館からは福田玄考が漢方担当で仁友堂で働いている。。
佐分利は仁の様子に疑問を感じる。「らしくおまへんなあ?切るなと言われても切るのが南方先生でっしゃろ?」佐分利の申し出に再び野風の胸を診察することになった仁。だが・・もしこれで岩だと診断され、身請けの話がなくなれば<未来は生まれなくなるのではないか?!>仁はそのことで心を静かに乱していたのだ・・。
佐分利の診断結果は悪性の岩・・。やはり以前、仁のしこりを感じた診断も間違いではなかった。だが仁は・・悪性とかぎったことではないとその診断を封じ込めたのだ。そして今も、「そうともいいきれないのではないでしょうか?乳房にメスをいれるということは大変なことなんです。もしかしたら・・身請け話もつぶしてしまうことになるでしょうし。私には・・まだ判断が。」「しかし!!」佐分利の叫びにも仁は決心を変えなかった。「南方先生がそうおっしゃるのなら、切らぬほうがよいのでありんしょう・・。」野風はやさしく微笑んだ。野風のそのやさしさに甘え、仁は自分の迷いを納得しようとしていたのだ・・。
仁は緒方洪庵の墓参りに行った。その墓の前で静かに語りかける。(自分のいた時代のことは考えないで、目の前の命だけを精一杯助けていくつもりだったのに・・。今の自分は野風さんの岩を見逃そうとしている。最低です・・。だけど身請けに、野風さんが身請けに行かなければ、未来は生まれない可能性があるんです・・)すべての悩みを緒方に打ち明けていた仁。その時、ザッと人の気配がしたのだが、見渡すと誰もいなかったのだ。
仁は吉原に足を運び艶やかな通りをなんともなしに歩いていた。どこかでずっと野風に対しての仕打ちを気にしてしまっているのだろう・・。突然後ろから抱きつかれ振り向くと、龍馬が大笑いして立っていた。。「竜馬さん!」「足もついてるぜよ!」突然の友との再会に顔がほころぶ仁。漁師に助けられたのだが、魚がうまくて娘があさ黒くて故郷の土佐を思い出し、おもわず居座ってしまったと大笑いしている。ようするに、タイムスリップなどしてなかったわけだ。「漁師って!江戸の漁師ですよね!?」でもそう聞いてしまう仁に、龍馬は目を細めマジマジと見つめ返してきた。細い路地に仁を引っ張り、突然土下座する龍馬。「野風を助けとおせ!」「・・・。」「聞いたがじゃ。先生が迷う気持ちはわかる。けんどここは、わしのために手術をしてくれんかい!?」龍馬は野風の身請けがもし流れた場合、女郎も辞めることになり、先々色々心細くなるだろう・・そこへ自分が口説き落とすという設定(作戦)らしい。。「龍馬さん・・。」「やかましいがじゃ!切れっゆうたら切れ!ええか?切れち言うがはわしじゃ!すべては全部わしのせいじゃ。野風を・・助けとうせ。」龍馬はやさしい笑顔を浮かべていた。龍馬は仁の言葉を、緒方の墓の前で懺悔していた仁の言葉を、聞いていたのだ。未来からやってきていた事も確信していた。仁の気持ちが痛いほどわかるからこそ、龍馬は全部自分のせいだと言って負担を軽くし、仁の心をとぎほぐしたのだ。仁はいつのまにか決めていた。
「直しますよ、野風さん。全力で。」仁の言葉に野風は涙ぐむ。やはり、本人もずっと岩のことが気になっていたのだ。佐分利の協力のもと、野風の手術が始まるのだ。手術前に花魁を辞めて吉原をでた野風。その空は、なんと青かったことか。野風の身請け話はやはり流れた。鈴屋の女将は身請け金も流れてしまったわけだから機嫌を損ねていたが、廓主・彦三郎は野風の身をただ案じ、仁に手術のお願いをした。佐分利が橘家に置いたままの手術道具をとりに来た。そこで咲は知ることになる。(先生が野風さんの手術をする!)
佐分利に聞いたのか咲が草原に行くと、仁は一生懸命に地面に穴を開けていた。「・・なにを、なさっているのですか?」「あっ。・・写真を、埋めようと思って・・。」野風の手術をするにあたって、未来の姿が写る写真を見てしまう自分がいる。だから・・埋めるのだ。咲は、仁の気持ちが痛いほどわかっていたので謝る。だが仁は笑うのだ。「咲さんに言われたからじゃないですよ。未来が生まれなくなるとはかぎらないと思ったんです。」なにが起こっても不思議じゃないから・・。「で、埋めちゃうんですけどね・・。私は臆病ですから。」「・・神は乗り越えられる試練しか与えません。試練のあとにはきっとすばらしい未来が・・。」「ありがとうございます。あ・・縁談?どうなってますか?」「・・明日が結納です。」「・・うまくいってるんですね。よかったです。」「・・では。」咲は行ってしまった。明日は野風の手術だ・・。
手術前の見舞いに来てくれた龍馬に、野風は万華鏡の話をしていた。「人という玉が筒の中に入れられ、誰かが回すのでありんすよ。すると模様ががらりと変わる。浮世のおもしろさでありんすよ・・。」万華鏡を覗きながら龍馬は言う。「その話をしてやってくれんかえ?南方仁に。目に見える模様は違えど、中の玉は決して変わらんという話を。」仁は医師達に、できるだけ乳房は残したいと説明。こうして運命の手術は始まった・・。
咲はその頃結納で、すでに相手方の使者が橘家に来ていた。咲の固い表情で、栄も咲の本当の気持ちは察していた。<だが娘のためにはこれが一番よい・・好いているのは咲ばかりなのですから・・>廊下を歩く咲はふと声を聞いた。「咲さん。メス。」思わず、仁のいた部屋を見てしまう・・。咲は泣き出していた。「母上・・。申しわけございませぬ。」ガラッと襖を開け、「兄上。そしてご使者の方。相すみませぬが、この結納の品をお受けすることはできませぬ。私には・・参らねばならぬところがございまして。」咲の土下座を無理矢理、恭太郎が怒声を上げて庭に放り投げた!「このうつけ者が!!」恭太郎にとってこの妹の決断は、心中では快哉を上げたことだろう。(これで妹を南方先生の所へいかせることができる!)恭太郎は咲を、使者が驚いて止めるほど罵倒した。恭太郎の合図ですべてを察した咲は一目散に駆け出す。南方仁のところへ!
が。もうひとつ、野風の手術場所に近づいてくる一団があった・・。浪人風の武士達である。「大殿に恥をかかせた女郎がここに隠れていると聞いた!」武士の棟梁格が入ってくるなり山田純庵のみぞおちに一撃!それでも医師達は手術室には入れまいと奮闘するが、なにぶん相手が悪かった・・。そこへ!「ここは医者の聖域でございます!なんびとたりとも許可なく入ることはかないませぬ!どうぞお引取りを!」仁の耳に咲の声が入ってきた。何が外で起きているのかわからない。しかし、<咲や皆が命がけで防いでくれているのはたしかだ!>仁は手術続行を決断する。なかなか血が止まらない・・外の緊迫感がメスを握る手を焦らせる・・。
咲は短刀を喉に突きつけ、入ったら自害すると扉の前に仁王立ちして一歩も引かない。だが、それで引くような相手ではなかった。あきらかに手術の邪魔をするのが目的なのだ。一体これは・・!?
ガラッ!と扉が開いた。「なんの御用でしょうか!?鈴屋からは大殿様からは暖かい温情の声をかけてもらえたと伺いました。本当にこれは、大殿様のご支持ですか!?」仁は武士達を睨みつけ、啖呵を切った。実は、これを差し向けたのは野風を共に<おしらべ>した藩医・三隅俊斎の差し金だった。岩を見逃したことを殿からお叱りを受けた際、いっしょに診断した仁を逆恨みしたのだ。仁のせいで泥を塗られたと・・。だが、そんな思惑は、仁と咲の信念には通じなかった。仁も咲の姿をマジマジと見て、その足の汚れをみて微笑んだ。(また全力で駆けつけてくれたんだな)「もう・・あんまり無茶ばっかりしないでくださいよ。そして本当にありがとうございました。」「はい。」そう言って笑う汗だらけの咲は、とても幸せそうだった。。
土を掘り返して木箱を開ける。写真に写る未来は・・いや写真そのものが、消えていたのだ。仁は咲に言う。「・・ひとつだけたしかなことは、私が開放されたってことなんです。これでもう・・未来に一喜一憂する必要ないじゃないですか。これからは目の前のことだけを見て、ただ懸命に生きればいい。もっとずっと・・ずっと生きやすくなる・・。」仁は涙もでない自分が薄情だと笑う。仁はタイムスリップする前、現代にいた時からずっと目の覚まさない婚約者・未来のことを考えて、どこか日常を漠然と過ごしていた。江戸にきてしまって、もし医術の針を進めることができたのなら、未来の病気は治るのでないか?その期待感と使命感でがんばってきたことは、心の支えとしてあったはずだ。ただ歴史をかえてしまうことで起きる史実とのずれに、恐怖を覚えるのも人間だからだろう。それでも、未来のためにと支えにしてやってきていたのだ。「・・これで、よかったんですよね?」何度も咲にそう尋ねて、自分に納得させようとする仁。咲はとなりに座り、何度も相槌を打ってくれた。写真が消えたということは、仁は未来と出会う未来はなくなったという暗示なのだろう、ふたりが出会わなければ写真も存在しない。そして・・タイムスリップする意味もなくなったということになる。仁は、この江戸で生きていくのだ。これからは本当に。
術後。龍馬は野風を連れ出してふたりで話をしていた。暖かい陽の光が、長屋の隣に流れている川に照り返されている。「ここをでてどうするがじゃ?」「・・先生がお困りになるとふっと現れ、先生が手を出されると望むものをポンと出されるのでありんすよ、咲様は。」さびしそうに笑う野風に、龍馬は自分とくるか?と誘う。。「坂本様はとてつもないものを秘めたお方。あちきなどではお相手は務まりんせん。」「・・おなごはみんなそう言ってわしを袖にするぜよ。」ふたりは笑う。ふいに龍馬の手を、自分の胸に当てる野風。「見事に直していただきんした。これ以上望んでは、罰が当たりんす。」野風はやさしくしてくれた龍馬にちょっとご褒美をあげて、すべてのことを笑顔で流した。仁への気持ち、花魁の日々、この江戸での日々を・・。
旅立つ野風を見送る仁と咲と龍馬。野風は仁を呼んで、ふいに口づけをした。。びっくりしてしまう仁に微笑んで咲に言う。「南方先生はかように医術以外は隙だらけのお人ゆえ、しかとお守りを。」また笑い、「では皆様。おさらばへ。」野風の後ろ姿を見て仁は思った。野風さんだけど・・この人は未来だったんじゃないかと・・。いつのまにか雪が降ってきていた。「雪になってしまうがか!?」という龍馬の叫びに、いつぞやのアカンベーをして振り向いた野風。「まっぴらごめんでありんす!これからはおのれの足で、行きたいところに行くでありんす。そこで誰かと出会い、誰かに慕い慕われ、誰よりも幸せになるでありんす!南方先生の手で!生まれ変わらせていただいたのでありんすから!南方先生・・ほんに、ほんにありがとうござりんした!」その涙を含んだ笑顔は今まで見たどの笑顔よりも、可愛らしく綺麗だった・・。仁も思わず叫んでいた。「よかったです!私は・・あなたを助けられて!よかったです!」仁も泣いていた。「よかったです!野風さん!」うれしそうに微笑んで野風は去っていった・・。
龍馬も旅立つ。未来の歴史を知っているだろう仁のことを、龍馬は横目で見てやさしく笑う。「十年先、百年先を知ったところで日は一日一日明けていくだけじゃ!一歩一歩進むしかないがじゃ、わしも先生も。地を這う虫のように。」「じゃ龍馬さん。また明日。」「おう!また明日。」仁が見上げた夕日は輝いていた。神田川が下に流れるその草原からは、江戸の城下町が見下ろせる。病院の屋上から見える夕日が一番綺麗だと未来は言っていた。だから、自分はそれ以外の夕日がもっと美しいなんて思っちゃいけないと思っていたんだ・・でも違ったてたんじゃないのか?江戸を照らす夕日は、仁の笑顔をオレンジ色に染め上げていた。

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