「JIN -仁-」まとめ中編

「JIN -仁-」まとめ中編
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http://www.tbs.co.jp/jin2009/
#6
「いや~たいしたもんだ。先生よ、何か困ったことがあったら言ってくれ。おいら、力になるからよ!」勝林太郎が叫ぶ。勝は坂本龍馬や橘恭太郎を伴って西洋医学所に訪れていた。ペニシリンを製造している様子を見学し、勝は感嘆、うれしそうに南方仁にそう言っていた。龍馬もなんともいえない表情で仁の手を握った。「どういたらこんなの作りだせるがじゃ?先生は・・。」いつのまにか自分の手のひらと仁の手のひらを合わせている。。「・・運がよかっただけですよ。」苦笑いでそう答える仁。まさか、未来から来ているとは言えないし、言ったとしてもわかってはもらえないだろう。ペニシリンをこの時代で開発してしまったことで、医学の針は確実に前に進んだことになる。これにより、現代の時代がどうなるのか?仁にもわからないのだ。だが、現代から持ってきた写真には、自分と未来の姿が、外での風景に溶け込んでいるものに変わっていたのだ。病室で撮った写真がその景色になっいていたということで、未来の病気は治る未来になったと、仁は考えていた。
そんな時。仁に医学館からの客が訪れた。本道=漢方治療、いわば国の中心医療の人間達に、仁は目をつけられたのだ。最近は緒方洪庵や松本良順らの蘭方医達が幅をきかせてしまって、本道はその存在を潜めてしまいつつあった。もっとも、蘭方医達の中でも対立があり、西洋医学所を作った本人・伊東玄朴が失脚。西洋医学所内部でも緒方・松本派と伊東派のわだかまりが広がりつつあった。そんな中で仁は本道から面会を求められる。本道からすれば、蘭方医達は勝手に西洋医学を持ち込んだ新参者、気に入るわけがない。仁の評判はそこまで広がってしまっていたのだ。
勝はそんな事情を知り、龍馬と恭太郎を仁の護衛と称し、供につけることにした。3人は医学館に向かう。町はなるほど、なにやら仁の話題で盛り上がっているようだ。<南方大明神>という護符まで売り出されている。。3人は食べ物屋でその様子を眺めていたが龍馬がポツリと言った。「先生は今、光輝いちゅう。で、その光っちゅうがは、必ず影を作るもんぜよ。先生の作った影の中でうめいちゅう連中はなんぼでもいるちゅうは、心しといとほうがええぜよ。」「・・そんな大げさな。」「暗闇でバッサリ!いかれるかもしれんきのう。」龍馬は口をもぐもぐさせながら仁に据わった目を向けて言った。恭太郎は端で淡々と食べている。「・・斬られたら死ぬのかな?俺。」仁は空を見つめボソッと言う。龍馬は思わず仁を眺めてしまった。(この先生は・・)
医学館に着いた3人。医学館督事・多紀元琰の仁に対する質問が始まった。ようするに、世間で騒がれている南方仁という医者は、出所不明、医術もどこで学んだかも不明、医学所はご公儀の施設ゆえに、仁の素性をちゃんと教えていただきたい。多紀は厳しい視線を仁に向けていた。恭太郎は、仁は記憶喪失だと説明。しかし火に油、記憶がないものの医術を信用せよと申すのか?と逆に問い詰められる原因になってしまう。突然!「それはご公儀の秘密ってもんぜよ。」龍馬は多紀に笑って言い放った。「睨まれてもこまるぜよ。ご公儀の秘密なんじゃき。」多紀は龍馬の言葉に、返す言葉をつまらせてしまう。恭太郎は龍馬の機転に驚かされる。(龍馬という男は、ここぞという場合はちゃんと考えている。誰よりも機転がきく)恭太郎は同じ勝の弟子という立場ながら、龍馬に遅れをとっていると感じてしまうのだった。だが、その龍馬の言葉だけで納得する多紀ではない。結局、仁はその医術を多紀に実際に見せることになる。触っただけで胃潰瘍だと診断したこと、しかも腹を切って胃の穴を塞いでしまうのだ。もう多紀(この時代の人間)にとって驚愕する医術。作らせていた手術道具といい、その手際といい、文句のつけどころがない。多紀は悔しさと驚きに満ちた目で仁を見つめていた・・。
これで本道からの難癖をかわせたはずの西洋医学所だったが。佐分利裕輔のメスが、殺された女郎の部屋から見つかったという報告がよせられるのだ。佐分利は殺人を犯してしまったのか!?
佐分利は、腑分け=解剖をしていたのだ。ずっと治療していた女郎が、佐分利に遺言として残していたこと。それは払えなかった代金の代わりに、自分が死んだ時は腑分けして医術に役立てて欲しいというものだった。殺人ではなかったが、腑分けはお上に上申してから行うのが筋。同席していた伊東玄朴(失脚し隠居の身)は、「誰かが責任を取らねばいけないということじゃ。」と事を穏便にすます気はないらしい。松本良順は、事を荒立てる必要はない!と叫ぶが、佐分利もさすがに言わなければ気がすまなかった。「熱心な医者なら腑分けなんていくらでも隠れてやっているではおまへんか?まして墓荒らししたわけでもないのに。とがめだてされるなんて聞いたことおまへんで!だいたいお上が許す腑分けの数は一年にふたつみっつでっせ!?そんなことでどうやって医術学べっていうんでっか!?そんなんじゃ、いつまでたっても南方先生の神がかった医術に追いつくことなんてできやしまへんで!それでええんでっか!?」ハッとする仁。無言の緒方・・。「さて・・。どうしますかな?」伊東が淡々と言う。それに緒方が口を開いた。「・・弟子のふめいは私のふめい。佐分利共々身を引かせて・・。」「緒方先生!!私は医術のためにやったのでございます!国のため、道のため!」佐分利はもう泣き面だ。彼はその情熱を純粋に医術に向けているにすぎない。彼はたしかに非はないのだ。「おまえの言う道とは!自分のためだけの道や!」だが緒方は佐分利を叱責する。「道を開くというならば、おまえは堂々と腑分けはすべし!とそう叫ぶべきだったんやないか?!」「そ、そんなことやったって通るわけ・・。」「玄朴先生も私も、人殺し出て行けと石を投げられながらも、種痘という道を開いてきました。この医学所も玄朴先生らが私財を投げ打って作ったもんや。道を開くということはな、自分だけの逃げ道を作ることやない!」仁も、襖の外で聞いていた龍馬も、今の緒方の言葉に感慨を覚えた。(わざと軽度の天然痘を起こさせて免疫を得る方法)を広めたという<種痘>。それは生易しい覚悟や努力でできることではない・・。緒方は佐分利の軽率な行動に対し、叱責したのだ。「松本先生、玄朴先生。残りましたる弟子と南方先生をよろしくお願いいたします。」緒方は頭を下げ場を収めた。仁はあまりの展開に涙をためながらも、どうすることもできなかったのだ・・。
夜。未来と自分の写った写真を眺めていた仁。そこへ咲がやってきた。「・・あのっ!私でよければお話してくれませんか!?たいしたことはできぬと思いますが、もの言わぬ写真とやらに問いかけるよりは!」仁は笑った。「・・咲さんのおっしゃることはもっともだなって。もこうにいるときも、もうずっと話せない相手に話しかけていたもんですから。癖なんですね、いい大人が恥ずかしいです・・。」仁の言い訳に、咲は視線をそらして、「すいません。」と出て行ってしまった。咲はずっと写真に写っている未来という女性を気にしていた。そして・・その女性にうりふたつの姿をもつ花魁・野風。咲は、自分には入れない領域が仁の心にあると、あらためて痛感してしまうのだった。そして。仁は自分の行動で現代の未来の具合がよくなっているとしても、この時代の人達が困っていいということにはならないと思い立つ。自分が今回の騒動の原因であると申し出ることにしたのだ。
佐分利を煽るようなことを言ったのは自分。得体の知れない自分が事の原因だと奉行所に申し開きすれば、この西洋医学所に傷がつくこともないはず。仁の言葉に、「たしかに。それなら傷はつかぬが。」伊東は苦笑しながら返す。「いや。先生はここに残るべきです!それが国のため。道のためでございます!」「緒方先生がここに残ることこそが国のため。道のためです。」医術や道具はほっておいても進歩していくでしょう。しかし、「石を投げられ、私財を投げ打ってでも人を助けたいと願う医の心を伝えていくことは、とても難しいことだと思います。」仁はわかってくれていたのだ。仁の情けと心根に、緒方は頭を下げた・・。
ペニシリン作成作業は、緒方が引き続き跡を継いでやってくれると説明している仁に、佐分利が泣いてすがりついてきた。自分は仁に煽られた事実などないのに!と。「いいんですよ。私は。」仁の言葉に、佐分利は申し訳なくて泣き崩れる。「・・・何がどうええがじゃ。」龍馬が医学所の柱によっかかりボソッと言った。「ここにおればその医術を広めることもいくらでもできるがじゃろ?それを嘘をつき、ありもせん責めをおい、どこをどうしたらそんな理屈になるぜよ?」「どう・・したんですか?」「先生には!!欲ってもんがまったく見えんぜよ!!」龍馬は仁ににじりよっていた。「人間は欲深い生き物じゃ。国のためなら死ねることができるっちゅう志士も、人のために生きるっちゅう医者も、一皮むけば成り上がりたい、金が欲しい、名を残したいっちゅう欲でがんじがらめじゃ!わしかてそうじゃ。頼まれもせんのに、この火の元の国をもっとええ国にしたいって思うちょるがは、生まれてきたからには何かやってやりたいっていう欲からじゃ!けんどその欲があるき、わしゃ進んでいける。先生のやってることはまるで仏じゃ。もし人であるならば・・死人じゃ。」仁は視線をそらし苦笑した。「・・死人?」「わしゃ心配なんぜよ!なんの欲ものうて、殺されるちゅうてもポカーンとしちゅう先生が!」龍馬は泣きべそになっていた。仁はそこで気づく。この時代に生きている自分自身に、執着がないということを・・!この時代に生きると決めた自分だったが、まだどこかで他人ごとのように見ていた自分が、そこにいたのだ。
そんな仁にある事件が起きる。ついに仁は何者かにその命を本当に狙われたのだ!刺客の剣は竹薮の竹に食い込み、からくも仁は逃げおおせたが。だが、その危機を救ったのは駆けつけた咲だったのだ。仁を連れて逃げてくれた咲、そしてその咲に手紙をよこして仁の危険を知らせてくれた野風。ふたりの女性に命を助けられたこと、なにより自分の手が恐怖で震えていることに、仁は笑みを浮かべた。(自分はこの時代でもちゃんと生きているんだ!)
咲は自分が仁の命を助けたことで、いままで悩んでいたわだかまりを忘れることができたようだ。自分のできることを仁にしてあげればいいのだと。野風は仁を想いながらも、吉原からでれない自分の身の上を呪っていた。その手には、南方大明神の護符を大事そうに握っている・・。野風は客の噂話を聞いていたのだ。仁の存在を煙たがる、医学館の医師達の会話を・・。
「南方先生に刺客を送ったのはおまんらじゃろ!?」龍馬は医学館に乗り込んでいき、多紀に怒鳴りつけた!「・・たしかにあの男は恐ろしい。あの医術が広まれば、我らは腐ったヌカのように捨てられるだろう。だがこの多紀元琰!医師としての誇りをもって生きてきた。己の身を守るために、人の命を奪おうなどとは思わん!」龍馬を睨みつけた多紀の目は精悍だった。「むしろ同じ蘭方医のほうがよっぽど恐ろしいのではないのか?」その言葉に龍馬はハッとする。その頃。西洋医学所のペニシリン製造場も荒らされていたのだ・・。佐分利のメスの件も誰かが仕組んだことだったとあとでわかる。緒方はこの状況に思わず咳きこんだ。緒方は咳を塞いだ手のひらに、血が広がっていることを皆に隠す。そして、このことに対処する決意を固めた・・。

#7
ペニシリン製造場が何者かによって破壊された。この時代、抗生物質であるペニシリンがあればどれだけ医療行為の幅が広がるであろう。山田純庵がからくも持ち出したペニシリンについて、伊東玄朴は叱る。「無断で持ち出すとは何事じゃ!ペニシリンを作り出す施設、財すべて医学所持ちであろう。」緒方洪庵は今回使用した分は自分が立て替えると申しでその場を繕うが。山田は言う。「しかし、使用するたびにこれでは・・。やはり一連の下手人を探したほうがよろしいのではないですか?」「・・恨みは恨みを買うだけやと思いませんか?ペニシリンを守るには、何かもっと別の策を講じないと。」緒方はそう返す。咳もひどく、たまに吐血も混じる。急がなければならない・・。緒方はこの事態にある決意を固めた。
ペニシリンが危ないこと、仁の医学所追放のこと。橘恭太郎は勝林太郎に報告した。勝も残念そうな顔をしたが、やはり坂本龍馬が立ち上がった。「どこ行くんだ?龍の字。」「先生の応援にいくぜよ!」「おまえさん頼むよ。」と恭太郎に話を振る勝。「どういてじゃあ!?」龍馬はくやしそうに勝ににじりよった。「そろそろ海軍を作る根回しを始めようと思ってな。死にかかってるのは人ばかりじゃないんだぜ。この国だって死にかかってるんだ!」勝の強い眼差しに龍馬は射抜かれていた。勝は海軍作りの一大事を龍馬にまかせようとしてくれているのか?ついに攘夷派の藩である長州藩が単独でアメリカの船を攻撃したという。だが、力の差は歴然。いずれ長州は異国から散々に報復攻撃を受けるだろう。異国の戦艦群は長州の兵や大砲、すべてを吹き飛ばす・・。だからこそ、今は自分達もその力を手に入れ、力を培うことが先決なのだ。ただ攘夷と異国に戦をしかけるだけでは、日本はすぐさま占領されてしまうだろう・・。
その頃。仁はどこからか現れた10円玉を握りしめていた。医学所を辞めてしまってから橘家で随分とぼんやりすごしているような感じである。平成22年の年号が刻んである10円玉を眺めながら仁は、現代の事に想いを馳せているのだろうか?縁側にいる仁を、咲が見つめていた。咲は迷いや悩みを振り切ったように感じる。花魁・野風は、仁のことを気にかけながらも、立場上駆けつけることも、気持ちを素直に伝えることもできないのだ。仁から助けてくれたお礼の手紙をもらっても、仁の前では素直になることができない野風。(でも自分は仁の助手として手術を手伝い、傍にいることができる。)咲は仁に話しかけた。「それは未来のものですか?」「あっああ?はい。丘に落ちてて。」「では、どなたかが先生のようにいらしたということでございますか?」仁は笑う。「・・誰かが来たのか、これだけが落ちてきたのか、わからないんですけど。」「・・戻れる道をお探しになっているのですか?」そう言い、咲は可愛い顔に少し陰を落として続けた。「今戻っても、未来さんの手術が成功する世にはなっていないと、案じていらっしゃる・・。」「・・どうしてわかったんですか?」咲はそれを聞いてクスッと笑う。「先生が迷われるとしたら、それしかないですから。」仁がこの時代で生きていく覚悟に迷っているのを悟っている咲は、仁のとなりに腰を下ろしてやさしく言った。「ご判断を・・急ぐ必要はないのではないでしょうか?いつか天命も参りましょうし。人には、いかに生きるべきか天命を授かる時が来るといいますから。」思わず空を見上げる仁。(もしこの時代に生きることが自分にとっての天命だとしたら、自分はそれを受け入れることが本当にできるのだろうか・・?)
そんなある日。今は大吉屋で奉公しているあの喜市が血相を変えて仁を尋ねてきた。茶屋の娘・茜が油をかぶり大怪我をしてしまったのだ。仁は皮膚移植を行う決意をし手術する。感染症を防ぐためにたくさんのペニシリンを使うことになるのだが・・仁にはペニシリンが破壊されたことは黙っている緒方達。茜の手術は緒方と、緒方の知人という濱口の前で行われた。だが!この手術の最中、ペニシリン製作所そのものが出火したという報が緒方の元によせられる。仁は驚愕し手が震えてしまう。それをそっと解きほぐす咲。手術は成功するも、緒方は焼け跡を眺めながら厳しい顔をして雨に打たれていた・・。(私は何ひとつできなかった。南方先生から数かぎりない医術をあたえられながら・・。すべては医学所内部の派閥争いを防げなかった自分の責任だ・・。)
茜の手術はうまくいったが、術後も感染症を防ぐためにペニシリンが必要だ。だが、ペニシリンは破壊され、燃やされ、数が足らない。新たに作るといっても、そう簡単に出来上がるものではないのだ・・。仁は西洋医学所のライバルである本道・医学館を尋ねるが、門前払いを食らってしまうあり様だった・・。<なぜこんな派閥争いでひとりの患者も救えない!>「あの程度のヤケドを直せないなんて!」仁はくやしくてうめく。「神は乗り越えられる試練しか与えない。」咲は仁の口癖を仁に言って元気ずける。恭太郎は勝にもペニシリン製造に力添えを頼むが、カビを集めるくらいしか素人には思いつかないのだ。あれから龍馬は、仁のペニシリンをたとえに出し、松平春獄から海軍資金5000両を借りてきてしまったらしい。。日本にとってのペニシリンは海軍であると!恭太郎は、勝の楽しそうなその話を聞きながらも、自分にはない龍馬の才覚、今の自分の未熟さに打ちのめされていた・・。
<歴史はまた、すべてをなかったことにするのか?>仁が希望を失くしかけた時、奇跡が起こった。山田からペニシリンが届いたのだ!一体これはどういうことか?すべては緒方が裏でペニシリンを作る算段をたててくれ準備してくれていたのだ。茜の手術を見学していた濱口。彼はヤマサ醤油の当主だったのだ。醤油職人は培養やろ過のいわばプロフェッショナル、緒方は彼らの援助支援を陰ながらずっと頼み込んできて成功させていたのだ。あくまで裏で動いていたのは、西洋医学所内部の敵である存在から見つからないようにするためである。濱口は緒方の熱意と人柄に心を動かされ、支援を決めたという。<この場所は、緒方先生が命を削って作った場所です。あなたのために>濱口の言葉に、仁は一目散に緒方の元へと走る。緒方はすでに重い労咳にかかっているというのだ・・。
「・・ペニシリンの件では大変お世話になりました。」「いやいや・・。」「緒方先生。診察をさせていただきますか?」「これはこれは。お見立てのほど、よろしゅうお願いします。」緒方はとてもうれしそうに笑った。緒方は診察を受けながら、(医の道は平らな世に通じていると思う)と仁に語りかけてきた。人は身分をまず言うが、中身は皆同じ。「未来は平らな世でございますか?先生は未来から来たお人でしょ?」緒方は穏やかに笑って仁を見つめている。わかっていたのだ、緒方には・・。仁は緒方の言葉に頷き、目をつぶった。「お恥ずかしいことでございます。」緒方は突然そう言い、涙ぐんだ。大阪で活動してきた緒方だったが、幕府の要請により江戸に出仕してきた。「口では道のため国のためといっておりましたが、心の中ではさびしゅうてさびしゅうて。たかが大阪から江戸に召しだされただけで・・。南方先生のさびしさにくらべればいかほどのことか。」「・・・。」仁にとって、これほどうれしく心に染みる慰めはなかっただろう。「・・私は孤独ではありませんでした。私のような得体のしれない者を信じ、支えてくださった人がいましたから。」仁は緒方の手を握り笑顔で答えた。緒方は涙でうなずく。「緒方先生。お教え願いますか。私はこのご恩にどう報いえばよろしいでしょうか?」「よりよき未来をお作りください。皆が楽しく笑いあう平らの世をお作りください。道のため、国のため。」緒方は仁に楽しそうに笑う。緒方はそのあと、穏やかに亡くなった・・。
「これで奴らも攘夷なんて絵に描いた餅だってわかっただろうさ。」勝が龍馬に言った。ふたりは海岸にきて海を見ている。長州藩はアメリカとフランスから攘夷の報復ということで攻撃を受けた。その異国の船を幕府が修理し、また長州を攻撃しているという事実。龍馬はそれが納得いかなかった。いくら異国と条約を結んだからといって日本を攻撃する異国の船を修理をする幕府・・。「想うところは違うけんど、奴らはこの国を守るために戦おうちょるぜよ!」龍馬の気持ちが理解できる勝は龍馬を諭す。長州を守るために幕府が条約を破れば、この日本はたちどころに占領されてしまうだろうと。「おいら幕臣だよ。幕臣だからできることも山のようにある、が、幕臣だから飲まなきゃなんねえこともある。」勝は渋い顔で海を見つめた。龍馬は考えていた自分のできること・・。
後日。仁に龍馬から手紙が来た。「友へ」その龍馬の手紙には<自分の天命が見えた。身分がないからこそしがらみのない自分が、日本をいまいちど洗濯するぜよ!>と書いてあった。<攘夷派も開国派もひとつにまとめてみせるぜよ!>(龍馬さん!)仁もピンときた。自分の天命・・。ひとつにする・・。仁は病院を作ることにしたのだ!(俺はここから君の腫瘍を治せる未来を作ってみせる。)未来との写真を空にかざしながら仁は誓っていた。「仁友堂」それが仁の新たな船出だった。

#8
「仁友堂」を立ち上げた南方仁。病院を自ら開業したのだ。まず、仁はペニシリン強化を図る。いままでのペニシリンを和紙に染みこませ、酸2割、アルカリ8割の触媒の水に漬ける。RF値(物質固有の移動距離)で和紙を上っていく仮定で、物質が分かれていくのだ。これにより、より純度の高いペニシリンができることになる。効力はいままでの30倍!これを大量生産させることができれば、もっとたくさんの病人達を助けることができる。だが・・これを実行するには400両かかるのだ。ヤマサ醤油当主・濱口は、以前ペニシリンのための援助をしたのは緒方洪庵がそれだけの器を持った人物だからこそ。とするどい目線を仁に向けた。「まずはあなた様の器がどんなものか、見せていただきたい。」「・・器。」
「まずは自分でなんとかしろってことですかね?」橘咲は帰宅して早々仁につぶやいた。「ていよく断られたっていうか・・。」仁はすでにふてくされているのか、そう返す。。そこへ、「器がありませぬ~!」と橘栄が間が悪く縁側にでてきた。仁は自分のことを言われたのかとへこんでしまうが。。実は父親形見の茶碗を売って金に換えたのは、橘恭太郎だった。「目の悪いものに、眼鏡を与えました・・。」そう言う恭太郎の表情は、どこか元気がない・・。
「龍馬さん!5000両も借りてきたんですか!?」仁は勝邸に訪れ、驚きの声を上げていた。「むふふふ。こん国の海軍を背負う海軍塾を作ろうちゅうがぜよ!そんくらいないと、話にならんがじゃき~。」団扇で扇ぎながら、ご満悦な坂本龍馬。。仁も少しくやしそうだ。。自分も新しいペニシリン作りたいけど資金が調達できないと嘆く。「先生は金策なんてできなくていいんだよ。人にはそれぞれ天分てものがあるんだからよ。」勝林太郎がやさしく仁に微笑んだ。仁は濱口に認めてもらうためにも、自分でなんとかしなくてはいけないと言うが考えは浮かばない。龍馬は、そんな時は吉原に行こうと言い始めてしまった。。「どこの女子もすばらしいけど、野風は吉原にしかいないのじゃき!」
龍馬に連れられ、龍馬と仁、恭太郎3人は夜道を提燈を照らして歩く。真っ暗の竹薮の中を、提燈の明かりだけがボッと光っている。そんな光景に、恭太郎は力なくつぶやいた。「器とは、闇に火を灯す、力のことかもしれませぬな。」仁も考えていた。いままでこの幕末で、医術だけに専念できたのは、それを不都合なくできていたのは、緒方洪庵という人物がいたおかげだったのだと。(俺にそんな器が、あるのだろうか・・?)
吉原に着くと、龍馬はもうノリノリである。。鈴屋に着くと、野風が髪を撫で付けながら近づく龍馬の脇をすり抜けて、仁の傍に寄り添った。「南方先生。実は、急ぎ診て頂きたい病人が。このままでは・・命を落としかねぬ様子で。玉屋の初音という女郎でありんす。」初音と聞いてギョッとしたのは恭太郎。その時!龍馬は妙な気配を感じて振り返った。傘をかぶった武士が数人こっちを見ていた。が、龍馬が気づいたので姿を消す。その者達に目を細め、睨みを利かす龍馬・・。
初音は客の子をはらんでしまったが、なかなか流れず中条流(子を流す専門の医者)を呼んで流したという。だが・・それから初音の具合は悪くなってしまったのだ・・。仁は敗血症と診断した。子を流した手術の時に細菌に感染して炎症を起こしているのだろう、このままでは死に至る。「ペニシリンを使いましょう。」初音は熱にうなされながら、「田之助さん・・。」とうわごとを言っていた。野風は言う。(誰の子かなんて特定はできない、でも初音はそう思いたいのでありんしょう・・)田之助は売れっ子女形役者らしい。本来役者は吉原には来てはいけないのだが・・。変装して何度も初音の所へ通っていたのだろうか?恭太郎はくやしそうに俯いている。仁はふと気づいた。初音の枕元には、眼鏡が置いてある。<この眼鏡は恭太郎さんが・・!>
ペニシリンを投与しても初音の具合は一行によくならない。菌の力が強いのだ・・。新しいペニシリンなら大丈夫だろうと確信していても、400両なんて大金がない。このままでは初音の命は・・。恭太郎は、田之助にご用立てしてもらうのはどうか?と意見を出す。初音を憎からず想っているのだろうし、文字どうりの千両役者だし。なるほど!!龍馬は仁の手を引っ張り、田之助の元へ急ぐ。恭太郎も、重い足取りで2人の後をついて行った。
田之助は妖しい雰囲気の色男だった。女装で紅をひいているので、余計威圧感がある。そんな大金あるわけないと言いながら、手元にある箱をひっくり返す。小判が大量にぶちまけられた!「おや、あった。」不敵に笑う田之助。仁は目を見張った・・。貸してください!という仁達にこの金は自分の血と肉だと言い張る田之助。<だからやるわけにはいかない!>恭太郎はそんな田之助に食ってかかるのだ。どうせ自分を見世物にして稼いだ泡銭ではないか!初音は田之助の名前だけをうわごとで呼んでいる・・。「哀れだと思わぬのか!?」「私だって身を売ってやってきたんだよ。血の吐くような思いで芸を磨き、やっと手にした。これはそういう金なんだよ。」田之助の眼光のするどさに恭太郎は射抜かれていた。「初音を助けたいならまず自分の身を切るのが筋だろうさ。旗本株でも売って出直してきやがれ!」田之助は場を完全に威圧していた。これが・・自分の芸を磨き続けている人間の力・・。武士である恭太郎だが、この場では完全に大敗していたのだ・・。3人はその場を後にするしかなかった。
「50両と、少しばかりありんす。」野風は仁に、この金を使って欲しいというのだ。初音に起こったことは、吉原の女郎すべてに起こりうること、「どうかお役立てくださんし。」だが。仁は気持ちだけ・・と断った。田之助の話を聞いたあとで、この金をどうして受け取れようか。「頭を冷やせ!先生!」龍馬が立ち上がった。ここでモタモタしていて初音が死んでしまっては元の子もないと叱咤する。「先生はもうペニシリンを作り始めるぜよ!」龍馬の号令で事態はとりあえず動きだした。だが・・依然解決したわけではない。金は足りないのだ・・。
龍馬が表にでると、また雨傘武士が数人いる・・。「わしか・・今度は。」刺客は自分を狙ってると確信する龍馬。だがふと、目についた看板で思いついた龍馬。「中条なら・・貯めこんでるかもしれんのう。」今は刺客にかまっておれん。
ペニシリン工場では、まためぐり合わせが悪く、暴動が起きそうになっていた。仁や医師達が必死に止めようとするが、働きづめで賃金も払われていなければ暴動も起きる。そこへ龍馬が大金を持って現れた。400両!!中条からペニシリンを質に7年間無利息で借りてきたのだ!「金なら支払う!端から順に並び!」さっそく小判をばら撒いて職人を安心させる龍馬。「すごいですね・・。坂本龍馬という人は。器が違う・・。」恭太郎はつぶやいていた。
それから不眠不休で、仁達はペニシリン製造に取り掛かる。その光景を見ながら山田純庵に言う恭太郎。「・・こうして作られていたのですね。皆が汗水を垂らし。」「この薬は南方先生が作りだし、緒方先生が命がけで守った、この世の宝でございますから。」「・・・。」恭太郎は言葉を発せなかった。(自分にはあるのか?そういうものが・・?)
初音に新しいペニシリンは効いた。治ったのだ。初音に一番に会いたいであろう恭太郎だったが・・彼は会わない。初音は、声で恭太郎だと察したが、同時に自分がうわ言で何か言っていたか?と咲に問うていた。そこで、自分がずっと田之助の名を呼んでいたことを知る・・。「申し訳ござりんせん・・。わちきは、人でなしでありんす。あんなにおやさしい人を傷つけ、女郎のくせに、嘘さえ突き通すこともできず・・。」歯を食いしばり初音は泣いた。「おのれの気持ちに、嘘はつけませぬ。せんないものと存じますよ。」咲は初音にやさしく言っていた。その言葉を聞いて、となりの部屋で野風がせつなそうに笑う・・。
すべてはとりあえず円満に解決したと思われた。だが、中条は謀ったのだ。7年ではなく7日!ペニシリンを貰い受けに来たと中条は押しかけてきてしまった!ほとんどヤクザ以下である。。龍馬は騙されてしまったのだ・・。だが、もう手はない。400両を今日中に中条に返さなければ、ペニシリンの権利はこの強欲爺さんのものとなってしまう!恭太郎はある決断をした。街中の群集の中で、田之助に土下座する恭太郎。<侍が役者に土下座をする>それは武士から見ればあってはならない屈辱なはずだ・・。だが恭太郎は頭を下げ続けたのだ・・。
ザッと襖が開き、仁達の前に姿を現した田之助。「ペニシリンはあんたらの血肉だっていうじゃないか!?田之助、命には命で応えるさ!」突然姿を現した田之助はそう言い、小判をばら撒き、「おとといきやがれ!」中条を追っ払う。「あの金は返さなくていいからね。貸すなんてせこい真似、きれえなんだよ。」まさに千両役者!華麗に決めてしまった。。なにがなんだかわからないが、仁と龍馬は、恭太郎が口ぞえしてくれたのだろうと察するのだった。ふたりは戻ってきた恭太郎に頭を下げる。
「・・それしかできなかっただけです。ボンクラの旗本にはそれしか・・。」「おまんのどこがボンクラじゃ!?」龍馬は恭太郎の活躍を褒め称えた。ペニシリンを守ったことは国を守ったのと同じだと。「・・私はあなたが嫌いでした。」恭太郎は龍馬に話しはじめたのだ。自分は護衛、龍馬は海軍、どちらも大切な役目だとわかっていても、世の中を動かすような大きなことをやっている龍馬を妬まずにはいられなかった。「けれど、こうして傍にいると器の違いを感じずにはおれず・・。」「どうしてそんなこと言うんですか?」仁が今度は言っていた。「恭太郎さんほどの護衛はどこにもいないのに?初めて会ったとき私を守って斬られてくれたじゃないですか?身元が知れない私を居候させてくれて、今日は私のすべてを身をきって守ってくれたじゃないですか!?恭太郎さんがいなければ、私はここで薬を作ることはできませんでしたよ?だから!恭太郎さんは私にとって最高の護衛なんです!」「・・・。」恭太郎は男泣きに泣いたのだ・・。(自分にも、できることはあった・・?)そして。ふたりの男のやさしさに泣く・・。
咲と野風も話をしていた。野風は、咲様はいずれ先生といっしょになるのか?と聞いていた。咲は仁には心に決めた人がいると笑う。「・・つらくありませぬか?」「私には、先生の医術がありますから。」咲はまた野風に笑う。野風はその時思ったのだ。(あちきには・・なにもありませんよ・・。先生。)
仁は再び濱口に頼みこんだ。「あなたの器は決して大きくないのでしょう。しかし、美しいんでしょうな・・。」濱口は仁の人柄と、仁のすべきことへの情熱を買って、出資することを誓ってくれた。
仁は、龍馬と咲と歩く帰り道に、再びあとをつけてくる刺客に出会う。龍馬は自分についてきていると仁に告げるが、仁はハッとしてしまうのだ!(歴史の針が進んだことで、龍馬暗殺も早まってしまうのではないか!?)「龍馬さん。気をつけてください。笑い事じゃないです!」仁の真面目すぎる表情に、龍馬は返す。「・・けんど、先生がおるがじゃろ?南方仁がおれば、坂本龍馬は死なん!」「・・助けますよ。」仁は心底に龍馬を思い、そう返していた。歴史の針は仁の予想を超えて進み始める。きわめて残酷な未来へと・・。

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    Excerpt: へぇ~: 蒼眼のタバ 野風!お久しぶりの更新。書くことないけど・・・。 もう・・・冬休みが明日で終わりだ・・・。_ノフ○ グッタリ もうちょい長けりゃいいけど・・・。早いな・・・休みが終わるの・・.. Weblog: 服 デザイン racked: 2010-01-07 01:33