「リミット刑事の現場2」まとめ前編

「リミット刑事の現場2」まとめ前編
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http://www.nhk.or.jp/nagoya/keiji2/
#1
ひとりの男がナイフを振り回して叫び散らしていた。警察に囲まれ、捕まるのは時間の問題。しかし・・興奮しているのか説得にも耳をかさず全身を振り回してナイフを振るう。見ればまだ若い。どうして・・この男はひとりの女性を殺してしまったのだろうか?説得には時間がかかり、しびれをきらした加藤啓吾刑事が男に忍びよろうと仲間を手で制しながらにじり寄る。啓吾は28歳で巡査部長。見た目も若いが、仕事に対するその情熱は確かなものがある。と、啓吾の横に無言でひとりの刑事が立った。初老という年齢の感じだが、その体には威容な貫禄が漂っている・・。その目がカッ!と見開かれた。その男・梅木拳は、啓吾より先に容疑者の前にズンズンと姿をさらし、そして言った。「・・無駄だ。おまえみたいな馬鹿を相手にしてるのは時間の無駄だ。手だせ。ワッパかけて牢屋に入れてやる。」「・・!?ざけんなよ!」「・・手だせ。」!!逆上してナイフを突きつけてきた容疑者を押さえつけ、その首を締め上げる梅木。後ろから腕を廻しこれでもかと締め上げている・・。啓吾も、他の刑事も警官も、あまりのことに声もでない・・。たまらず啓吾が飛び込んで梅木を突き飛ばした。「あれ以上やったら死んでましたよ!!」その啓吾を睨みつける梅木の顔は卑屈にゆがんでいた。まもなく容疑者は取り押さえられる。しかし・・このあと啓吾は、この一癖もふた癖もある梅木と組まされることになるのだ。
啓吾は昇進してこの名古屋中央署に赴任してきたばかりだが、どうやら梅木はこの署では名物刑事らしい。もちろん悪い評判の・・。太宰満警部からは「どうすんだよ!?このじじい!」と罵倒を浴びせられている。今回の容疑者逮捕劇が早くもネットなどに流れ、警察は民間から叩かれまくってしまったのだ。逮捕の状況が世間的に問題だと本部まででばってきた。本庁に身柄引き渡しも決定してしまう。太宰は「取調べもまともにさせてもらえねえ!!」と梅木にわめいた。ともかく・・梅木は現場を引っかき回す常習犯らしい。
今回の事件は19歳の女性が通りすがりで刺され死亡した。容疑者は顔見知りなのか違うのか?次の日から啓吾は梅木と組んで捜査する。ふたりが町を歩いていると「啓吾!」と女が声をかけてきた。青井茉莉亜、啓吾の恋人だ。いっしょに住み始めたらしく梅木のことも啓吾から聞いていたらしい。「もしかして例の無茶苦茶な人?あ、ごめんなさい。」茉莉亜は梅木にあやまり、梅木も無言で会釈する。そこの花屋で働いていると説明するが、梅木は茉莉亜と目をあまりあわせようとせずその場を去る。「・・噂どうりの人だね。」「だろ。じゃ!」「あっ啓吾。今日帰ったら話あるんだけど。仕事がんばってね!」両手に花を持っていた茉莉亜は店に戻っていった。「・・結婚するのか?止めたほうがいいな。」梅木は啓吾にそんなことを言う。ムッとした啓吾は捜査の話をした。「俺は知りたいんです。なぜこんな事件が起きたのか?犯人は一体何を考えていたのか?」ふたりは被害者の両親に会いいく。
「なんでこんなことになったんでしょう・・。なんで・・娘はこんな目にあわなならんのでしょう?」父親は呆けて、母親はひたすら泣いていた・・。被害者の娘は容疑者の男とは面識はなかったようだ。じゃあ、やはり誰でもよかった通りすがりの殺人だったのだろうか?どことなく他人事のような梅木に尋ねる啓吾。自分で捕まえた犯人を自分で取り調べしたいと思わないんですか?「おまえなんで刑事になった?家のローンでもかかえてるのか?」「市民守るためです。」「なあ?警察という組織は市民なんか守ろうと思っちゃいねえ。警察は警察という組織を守りたいだけだ。みんなその組織の中の出世のことだけしか考えてない。おまえも刑事何年かやって、それくらいわかったろ?刑事なんて岡っ引とおんなじだ、ご用ご用って悪党せっせと捕まえてりゃあそれでいいんだ。」あまりの言葉に呆然とする啓吾。だが、ふたりは署に戻ってきて欲しいと連絡を受ける。だんまりを決め込んでいた容疑者の男が、ふたりの取調べならなんでも話をするというのだ。
「謝ってください?少しひどすぎるんじゃないですか?人をこんな目にあわせて。あきらかに人権侵害だよな・・。謝ってくれるまで何も話しませんから。」その容疑者の言葉に梅木は椅子から立ち上がる。「どこ行くんですか?梅木さん。」取調室から出ようとして背を向け梅木は言う。「・・ああ?おまえ適当に聞いとけ。そいつに伝えとけ。そいつがなにを思い何を話そうが、そんなことはどうだっていいって。」「俺を無視すんなよ!!」突然、容疑者の青年は叫び出した!「なんでいつもそうなんだ・・親も学校も会社も誰も話なんて聞いてくれなかった。でもいつか自分のこと理解してくれる人が現れるって待って、待って・・待って!おいしいオモイしてる奴なんてたくさんいるのに!!どうして俺だけこんな目にあわなきゃいけないんだよ!間違ってるだろ!?こんな世の中!!」「だからなんだ!!」梅木は振り返っていた。「自分がいかに虐げられ、孤独だったかを泣きながら話したら、誰かが話をじっと聞いてくれるとでも思ったか!!」「・・なに言ってんだよ・・。」「おまえはな!ただ強い奴に向かっていくのが怖かった、だから弱い人を選んで刺し殺した、ただそれだけだ!」「・・おまえに俺の気持ちの何がわかんだよ!」「わかるか馬鹿!!てめえの話なんてわかってたまるか!てめえがいくら長くくっちゃっべったところでお前の気持ちなんて、だ~れもわからねえ!みーんな自分の人生背負って精一杯忙しいんだよ!おまえの人生に、そのおまえの退屈な人生に付き合ってる暇なんてねえんだよ!!」さすがに啓吾は容疑者をかばう。「自分も少しはこいつの気持ちがわかる!もし誰かひとりでもSOSに気づいていれば!そんな不幸な境遇があったとは梅木さん思いませんか!?」「違う!そいつは違う!人間は生きているうちに殺したいほど憎い人間に出会うことがある。だが普通は殺さない、殺せない!だがこいつは憎くもない人を、弱い人を選んで刺し殺した。なぜそんなことができるのか?それはこいつが!人間じゃないからだ!!おめえもしっかり踏みとどまって、戦え!!人間なら!!」そして梅木は顔を歪めて笑う。「でも、おまえには無理か?おまえはよ、みんなのために死んだほういい。ば~か。」「・・何言ってんだよ!?人権侵害だろ!!」容疑者は泣きべそをかいてわめく。「おまえに人権なんてねえ!!」啓吾は暴れようとする容疑者を押さえ込むのに必死だった・・。梅木は背を向け扉を出ていく。
啓吾は梅木に言った。容疑者も自分達と同じ人間だと。「おまえは抱かれたい刑事ナンバーワンにでもなりたいのか?」「俺は人を憎むより愛したいだけです!」自分の父親も刑事で、昔世話をした人間に殺された。でも父親みたいに人を信じ続ける刑事に自分はなりたい!「彼は罪は憎んでも人を愛してたと思うんです。」「・・おまえのような奴に限って悪魔のようなことをしでかす。まあせいぜいがんばりな!加藤啓吾。」
茉莉亜は子供ができたと啓吾に告白する。ちょっと不安そうに、他人事のように。「啓吾の言うとおりにするよ、私。」「じゃあ・・結婚しよう、茉莉亜。」「・・私、啓吾のこと幸せにできるかな?」「あたりまえだろ。」茉莉亜とはある事件がきっかけで出会った女性だった。事件の関係者だった・・。幸せになるのにどこか臆病な表情をする茉莉亜。まだ事件の傷が癒えていないのだろう。ふたりの部屋には茉莉亜の寝顔の油絵が飾ってあった。その絵は写真のように鮮明に、綺麗な茉莉亜の寝顔が描かれている。
被害者の女性の母親が自殺を図った。命はとりとめたが、意識はいつ戻るかわからない状態になってしまう・・。病院に駆けつけると被害者の父親は言った。「教えてください・・。あいつは一体なんだ言ってるんですか?警察はわしらに色々聞くけど、あいつのことな~んも教えてくれん!なぜ娘があんなことになったのか一番知りたいのはわしら遺族なのに・・。」父親は泣き出してしまった。梅木は突然父親の胸倉を掴む。「俺を殴れ。そしたら俺があいつに会わせてやるよ。本部に身柄移されたらもう二度とチャンスはない。早く!俺を殴れ!!」梅木は父親をわざと殴らせ逮捕し、署の拘置場に連れていく荒業にでたのだ。そして同じ檻の中に入れる・・容疑者と被害者娘の父親を。
檻の中に入ってきた男に目もくれずふてくされている容疑者。父親はにじりよってしゃべり始めた。「・・なんであんなことしたの?うちの娘はまだ19だった。看護士になるって毎日毎日勉強してたがに。」!?容疑者もさすがに察したのだろう「おい!?」檻の外で様子を見ている啓吾と梅木に懇願する目を向けた。「人の話は黙って聞くもんだよ!」梅木は檻の中に入り容疑者の口を塞いだ!「あの子はわしと女房の宝物だったんです。わしらはこれからどうやって生きてったらいいんですか?なんならわしも殺したってください。殺したってください!」・・・容疑者の目から涙が伝う。ようやく実感したのだろう、自分の犯した罪の重さに気づいたのだ・・。
梅木の行動のことを東野恵一刑事課長と太宰に聞かれる啓吾。啓吾は梅木のことをかばった、あれは正当な逮捕だったと。啓吾は複雑な心境だった・・梅木のしたことは合法ではないが、人の気持ちを考えていた、少なくてもあの父親は感謝していた・・。啓吾は本部に連行される容疑者に声をかける。「君はひとりじゃないから!俺は・・ここにいるから!」その後ろ姿を見て「ば~か。」と立ち去る梅木。
啓吾がデスクに戻ると、水をなみなみ満たしたあふれそうなコップにコインを落としてる梅木がいた。水をこぼさないように入れるのは至難のワザだ、梅木はこれで荒ぶる気持ちを落ち着かせているのかもしれない。「・・なんのために梅木さんは刑事をやっているんですか?」「・・人を殺すためだ。ある奴を、殺す!」コインを入れた拍子に水がこぼれる。啓吾を見つめた梅木の目は冷たく光っていた・・。

#2
名古屋中央署では総出で大掛かりな会議が行われていた。麻薬覚せい剤取り締まり強化月間で、自分達中央署の成果が思わしくない。と東野恵一刑事課長が激を飛ばす。署内は麻薬捜査に力を入れることになるが、そんな中、公園内にいたホームレスが焼死するという事件が起きた。加藤啓吾は前回の容疑者と被害者遺族を引き合わせたことを不問に伏すかわり、<梅木拳の様子を自分に伝えるように>と東野に念を押される。そして、このホームレス焼死事件に啓吾と梅木は廻された。啓吾は麻薬捜査に早く加わりたい気持ちを押させつつ聞き込みを開始するが、梅木は啓吾の後ろを黙々とついてくるだけ。(東野は梅木の行動に異常に敏感になっているようだが、それはただ自分達に迷惑をかける常習犯だからという理由だけなのか?)啓吾はそのことも気になっていた・・。
最初の現場検証や聞き込みではホームレスの家に火がつき、それにともなう焼死、ボヤである事故死と判断された。啓吾達はそれの裏づけとして捜査し始める。
町内会長は人のよさそうな物腰で説明してくれた。もともと公園の中に住んでいたホームレスのせいで町内の人達は安心して子供達を遊ばせられないと思っていたという。近所の人達への聞き込みも、返事は素っ気無いというかホームレスがあんな場所に住んでいたから悪いなど、あまり関心がない。学校や会社での聞き込みでも、いじめやリストラなどのストレスで放火をしそうな人物の特定はできなかった。やはり本人によるボヤだったのだろう・・。署に戻りそのことを報告した啓吾は、麻薬捜査の方に加わることになった。
「おい、随分うれしそうだな?麻薬捜査の仲間に入れてもらって。」梅木が啓吾を呼び止め声をかけた。「ホームレスなんかどうでもいいやあか?」「・・あれだけ聞き込みしても、別に事件性があるとは思えなかったじゃないですか!?」「だったらなぜ付近住民には聞き込みをして、仲間のホームレスに聞き込みをやらなかった?おまえも上の連中と同じでこの事件を舐めている!ホームレスなんか公園を不法占拠する違法居住者だと決め付けている!そんな奴らのために真面目に捜査するのは、馬鹿馬鹿しいんだろ?」苦虫を噛み潰したような表情で皮肉を言い去っていく梅木。憎憎しげにその背中を見つめるしかない啓吾・・。(一体なんなんだこの人は!?)
家に帰ってからもビールを飲みながらボッーとしている啓吾。茉莉亜はそんな上の空の啓吾を見て笑みを浮かべながらも、母子手帳をもらってきたことを報告。「今やっている事件を精一杯やるしかないんじゃないかな?啓吾にしかできないことは必ずあるよ。私だってあの事件の時、啓吾がいなかったらどうなってたかわからないし。私は刑事としての啓吾を尊敬してる、応援する。」茉莉亜の言葉に少し心が晴れる啓吾だった・・。
次の日。デスクで啓吾はホームレス焼死の資料に再度目を通していた。「それ捜査打ち切りになったんじゃ?」伊坂聡警部補が声をかけてきた。伊坂は一年後には本部に戻る、いわゆる若手エリートキャリアだ。熱心に資料を見ている啓吾に、「あの・・ちょっと気になる噂聞いたんですけど。」伊坂は啓吾にあることを教えてくれた。<火事の何日か前から掲示板に変な書き込みが続けられている>伊坂がみせてくれたPCに表示された掲示板には、(満月の夜に火あぶりの刑が実行される、粗大ごみは燃えてしまえばいい)などの書き込みがヅラリと続けられていたのだ・・。もしこれがあの火事のことなら、事件性の可能性もでてくる!
啓吾は東野にこの事実を伝えるが、東野は麻薬捜査に手がいっぱいでそっけなく、取り合ってくれない。「おまえも少しは貢献してくれよ?中央署のために。」太宰満警部からは皮肉しか言われない始末だ・・。「おい!行くぞ。」梅木が呆然としてる啓吾を呼びつけた。
麻薬捜査かと思っていた啓吾、しかし!梅木がパチンコ屋で締め上げた若者は、薬物保持者ではなく、ホームレスが焼け死んだ日の公園の防犯カメラに写っていた二人組だった。ホームレスが焼け死ぬところを多数の野次馬が見物していたのだ。ホームレスが火に焼かれ苦しんでいても、誰も助けを差し伸べなかったということになる・・。しかもその二人組は現場の状況を携帯動画で撮影していた。その動画を見て梅木はある人物を思い出す。梅木は署のロッカー室に走りこみ、ある書類を持ち出してきた。写真と名前、生年月日、そして罪状が書いてある。田宮という男だった。「似てますね・・。」啓吾の呻きに、梅木はまた歩きだす。今度は田宮について聞き込みをするふたり。あるネットカフェに最近入り浸っているという噂。そしてサラ金から借りていた金、最近ドッと返したという噂・・。
ネットカフェに入るなり「田宮ぁ!!」と叫びながらガンガン部屋のドアを開けていく梅木。突然ドアを開けられ、漫画を読んでいた男やカップルがド肝を抜かれる。その梅木のあとを謝りながらドアを閉めて回る啓吾だったが!突然前のドアが開いた!?「梅木さん!!」啓吾は逃げ出した男を追いかける。その男は田宮だった!全速力で走り、ふんばりをきかせて本棚に手をかけ角を曲がる。本棚の漫画はバコバコと崩れ落ちた。ネットカフェを出た所で、とうとう啓吾は田宮を見失ってしまった。だが・・遅れて駆けつけた梅木にまんまんまと見つかり、みぞおちに一撃を食らわされた田宮は、どこかの倉庫に連行された。
「無茶苦茶ですよ、刑事さん。まだ腹痛いんだけど。」「この前の月曜の夜、何やってた?」啓吾の問いに、「え?月曜?ああ、さっきの店にずっといましたよ。なにしろ俺、ネットカフェ難民ですから。」笑いながら田宮が答えた。「社会に不必要なもの何でも処分します、アドバイス料2万より。さっきのネットカフェのおまえの部屋のパソコン調べたらこんなもんがでてきた。」啓吾はプリントアウトした文章を見せる。「・・ハハッ。冗談ですよ。こんなの本気でやると思ってます?」「そしてそのサイトに<不法に放置されてる粗大ゴミを撤去して頂けませんか?>という書き込みが一ヶ月前にあったのもわかってる。」とさらに啓吾が追い詰める。だが・・田宮はシラをきるばかりだ。「・・そいつにたのまれておまえが火をつけた。」梅木がしびれを切らして言う。「これ任意でしょ?失礼しま~す。」突然!梅木は足払いで田宮を転ばし、羽交い絞めにして、さっき奪ったジッポライターを田宮の顔に近づけた。「被害者は熱かったろうなあ!被害者は苦しかったろうなあ!!」ジッポに火を点け田宮の顔をあぶり始める!「梅木さん!?」「同じ目にあわせてやっからな!熱かったろうなあ!もっと熱かったろうなあ!!」田宮は熱さに顔を引きつらせ泣き叫んでいた。「熱い!助けてくれ!」すかさずバケツに水を汲み、それを浴びせて梅木と田宮を引き離す啓吾。だが、田宮は白状したのだ。「許してくれよ!俺はただ頼まれただけなんだ!死ぬなんて思わなかったんだよ!!」
「ああいう奴はほっとくと悪さするんだよ。刑務所に入れておくのが一番いい。」「梅木さんのそういう考え方がどれだけ周囲の人に迷惑かけているかわかってない!俺、きっとあなたはやさしい人なんだろうなって思ってたけど、そうじゃなかった。単に凶暴で人を怖がらせるのが好きなだけだ!俺は絶対に間違ってると思いますよ!あなたは!」署の廊下で啓吾はさすがに梅木に怒鳴る。梅木のやり方はあまりに警察の基本から外れすぎている。それがわかっていても、事実、そのやり方で田宮を自白に追い込むことができたのだ・・。またもや啓吾はしばらくデスクに座り考えこんでしまう。
次の日。啓吾はホームレスの件を東野に報告する。実行犯が見つかったと。作成した書類を見せ、<主犯がいるので捜査したい>と熱弁する。だが、東野は取り合わない。抽象的な内容のメールだけじゃシラをきられて終りだ、状況証拠だけでは逮捕はできない。「つまらないことに時間使いやがって。俺達はな!麻薬のほうで必死なんだよ!めんどくさい事持ち出すんじゃねえ!」太宰はまたも皮肉たっぷりに啓吾に怒鳴る。だが、今回は啓吾も引き下がらなかった。「俺は事件に、めんどくさいものなんてひとつもないと思います!被害者や家族に同じことが言えますか?・・俺の知り合いに、突然大切な人を失った人がいます。将来を共に生きようとしていた人が目の前で、何の意味をなく殺されたんです。なんとか立ち直ったように見えても・・今も事件のことが忘れられずに苦しんでます。俺達刑事も、残された人の苦しさやそういうやりきれなさを忘れちゃいけないんじゃないんでしょうか?」啓吾は失礼します。とその場をあとにする。「ばーか。」しかめ面で梅木はぼやいていた。
庶務係・警部補の筒井薫は啓吾を呼び止めた。薫は啓吾のことがお気に入りで、たまにちょっかいをだしている。今回のキレっぷりにも喜んでいるようだ。「嫌いじゃないよそういうタイプ。なんなら結婚する?」ちょっときつめな綺麗な顔に笑顔を作り、啓吾に微笑んだ。若くみえるが、実は44歳だ。。啓吾より16歳年上の姉さんなのだ。啓吾は話をそらすため、梅木は結婚とかしているんですか?と尋ねた。「・・昔、結婚考えてた人がいたんだけど、死んじゃったの。・・ああみえて結構ナイーブで真っ直ぐだったから、その人のこと忘れられないのかも。」それを聞いて、啓吾の顔は影を落とす。「あれ?そういえば似てるかも。若い頃の梅さんに。」薫の最後の言葉には苦笑する啓吾だった。
今度は伊坂が啓吾を呼び止めた。「あの・・僕から聞いたってことは課長に黙っててくれていいですか?メールを送って放火を依頼した相手、ちょっと調べたらわかっちゃったんですよね・・。」伊坂の端正な顔が引きつっていた。「えっ?」思わず啓吾は呆けてしまう。その相手は・・町内会長だった・・。
公園のベンチに腰かけながら、子供達が遊んでいるのを幸せそうに眺めている、その町内会長の隣に腰を下ろす啓吾。田宮の写真をそれとなく見せるが、町内会長はとぼけていた。「あんたに頼まれたからだって言ってるなあ、そいつ。そいつの携帯にはあんたとのメールのやりとりが全部残ってた。報酬としてあんたから30万もらったとも言ってる。」梅木に続き啓吾が促した。「・・署にご同行願いますか?」「・・私の・・私のせいじゃないんだ。何度も何度もお願いしてたんですよ、警察も役所も生返事と先送りばっかりで結局何にもしてくれなかったじゃないですか!?ホームレスというのはね、みんなの公園、不法占拠してる犯罪者なんですよ・・。だいたいホームレスの家ったってゴミの山じゃないですか?そんなのどう整理して掃除しようがどうだっていいじゃないですか?なぜ!罪に問われなきゃならないんだ!」「中に人がいるのをわかってて放火を依頼したんでしょ?殺してしまう可能性があったってことも、わかってたんじゃないんですか?」覗き込むように啓吾は問い詰める。「罪を認めて、自首してもらえませんか?」「・・・」町内会長は立ち上がった。独り言のようにしゃべり始める。「・・この公園はね、みんなで作ったんですよ。子供達は危ないのに道路で遊んでたんです・・私の孫まで車にはねられて大怪我を負ったんですよ!もう二度とそんなことが起きないように、この町になんとか公園を作っていただこう・・。だからこの公園ができた時、涙がでました。この公園は町の人達のためにあるんです。ホームレスのねぐらにするためにあるんじゃないんだ!いいじゃないですか!?あの人達のひとりやふたり死んだって、いいじゃないですか!誰が困るんですか!?失礼します。」町内会長は穏やかだった顔を歪めて立ち去ろうとした。「ちょっと付き合ってもらおうか?」梅木は町内会長をどこかに連れていくようだ。啓吾は梅木が何をやらかすのか、なんとなくわかっていたのかもしれない。その場所に黙ってついていったが、そこに着いた時はさすがに顔を下に向けるしかなかった・・。
冷凍された死体をケースから引きずり出す梅木。その死体はあのホームレスだった。「あんたが殺した男だ。身元がわからないから明日、福祉課が引き取ってもう一度火葬場で焼かれることになる。弔う奴もいねえから葬式もねえ。俺達で手向けの言葉送ってやろうぜ。」「な、何を言ってるんだ!?」「ほら。もう一度言ってみろよ!言ってやれよ早く!」「もう十分だ!」逃げようとする町内会長の首根っこを捕まえて死体の前に引きずる。「言ってやれよ!ええ?散々偉そうな理屈並べやがって。こいつはゴミか?違う!こいつは人間だ!どうせやるんなら、自分の手汚して、堂々と火を点けますよと自分で脅せばよかったんだ!それならこいつも逃げる暇があったんだ。ほら、言ってやれ!」会長はもう吐きそうになって目をそむけるばかりだ・・。「俺もあなたといっしょですよ。」啓吾は会長の背をさすりながら話しはじめた。「ホームレスなんて仕事もせずにブラブラしてる怠けものだって。俺もあんな姿になってまで生きていようなんて思わない。でも間違ってると思いません?あんな奴、死んじゃえってみんな殺してたら、それこそ動物と変わらないですよ?簡単じゃなかったと思いますけど・・あなたならちゃんと話をして解決できたんじゃないですかね?・・だって俺達、人間なんですよ。」それは、啓吾の町内会長に対する思いやりだったのかも知れない。だが、啓吾も忘れているのではないか?それとも啓吾がまだ知らないだけなのか?すべてのホームレスが怠け者ではないということを。不公平や理不尽でしかたなくそうなってしまった人達だって大勢いるのが現実なのだ。「あんた、長いこと生きてきたわりには大事なこと忘れてる。人間は死ねば消えていく。だが、殺された人間は消えない。殺された人間は、死なねえんだ。殺した人間の傍でずっと生きてる。ここで罪を認めてここから人間らしく生きるか、それともここから逃げて、偽善者として生きていくか、選べ!」梅木は会長の背中にそう言っていた。泣き出してしまう町内会長。彼は自分だけじゃない、みんなが賛成してくれたんだと泣きながら言う。町内の人達との会議で話がまとまらない会長は、便利屋に頼んで解決してもらう案を出したのだった・・。その案に喜んで賛同する町内の人達。聞き込みの時、必要以上に素っ気無い理由はこれだったのだ。掲示板の書き込みも町内の人達の野次馬根性だったのだろう・・。
次の日。現場検証では田宮が公園で自供していた。それを町内の人間達がまた野次馬している。(本当にやるなんてねえ)(町内会長も怖いことするわ)啓吾と梅木もそれを目を細めて眺めていた。「どいつもこいつも勝手なもんだな・・。」「なんですかね。刑事の仕事って?なんなんですかね・・。」「刑事を長いことやってるとわかる。俺達の仕事は・・人を憎んで憎んで、憎みきる。それが刑事の仕事だ。人を愛することじゃない。おまえには向いてねえな・・。人間は、もうだめかも知れねえな・・。」梅木は立ち去った。啓吾はひとり、自分も偽善者なのでは?と悩み始めてしまったのだ。その不安は茉莉亜にも伝わる。思わず、<自分といて幸せか?あの絵を描いてもらっていた頃より?>と聞いてしまう啓吾。茉莉亜もそんな啓吾の心の揺れに、不安を感じ始めてしまっている・・。ふたりの部屋には昔、茉莉亜が死んだ恋人に描いてもらった油絵が飾ってある。その絵には幸せそうに寝ている茉莉亜の顔があった。
後日。あんなに麻薬捜査が進展しなかった中央署だったが、ひょっこり梅木が重要参考人を引っ張ってきた。あまりのことに一同声もでない。梅木はなぜこんな簡単に捕まえてこれたのか?啓吾はなんとなくロッカー室に足を運び、梅木のロッカーを開ける。そこには、容疑者リスト・検挙者リストが事件別にわけてあるファイルが分厚く収まっていたのだ。梅木が独自で作ったのだろう、田宮のことも、麻薬の容疑者も梅木の作成したファイルリストを見れば目星がつく。梅木は影で並々ならぬ労力を、捜査とは別に割いていたのだ!
「梅さん。もしかして加藤を自分のような刑事にしたいと思ってるんじゃないでしょうね?それとも、昔の部下が課長になったことに対する当てつけですか?」東野が廊下で梅木にそう呼び止めた。「いやあ、人間出世すると色々考えて大変だな。ストレスたまるだろ?」「・・あいつもうすぐでてくるみたいですよ、仮釈放が決まって。いくらあなたの婚約者を殺した男でも、あれから18年も経つんです。まさか・・本気で殺そうなんて思ってないでしょうね?」・・・梅木は振り返った。「殺す!・・そのために今日まで生きてきたんだ!」その会話を廊下の影で啓吾は聞いてしまうのだった。

#3
署の廊下でひとりの女性と伊坂聡警部補が話をしている。どうやら女性はストーカー被害にあっていることを訴えているようだ。伊坂は困り顔で応対に困っていた。生活安全課からまだ書類がきていないから捜査できないという伊坂の言葉に、焦りと嫌悪感を浮かべる女性。そんなやり取りを見て梅木は、その女性を一室に連れていった。自分が話を聞くというわけだ。啓吾もそれに同行する。
その女はナナという名で22歳、とてもチャーミングな顔をしていた。そのストーカー行為をはたらいているのは弁護士らしい。その弁護士・三枝とは以前付き合っていたが現在は別れている。生活も援助してもらって、もちろん好きで付き合っていたが・・三枝には妻子がいたのを知ったため、ナナは別れをきりだしたのだ。ナナが見せた携帯の着信には、三枝からの履歴が画面を埋め尽くさんばかりになっていた。「携帯を変えたりはしましたか?」啓吾の問いに、「変えました。だけど、どういう方法かしらないけど新しい番号を調べてまたかけてくるんです。」そのうちポストをかってにあさったり待ち伏せしたり、先日は留守の間に部屋に上がりこんでいたという・・。「もう家に帰るのが怖くて・・。」警察にいっても彼との関係をしつこく聞かれたあげく夜道は歩かないようにと当たり前のことを言われて帰された。「どうすればいいんですか?私・・。」「・・・。」ナナの正面に座っていた啓吾も顔をしかめるしかない。ちょっと離れたところでぶっ長面で立っていた梅木が口を開いた。「なあ?そいつ、そいつはあんたのこと殺すと思うかい?どうなんだ?」「・・もしかしたら・・。別れるくらいなら死んでやるって言ってたから・・。」
いきり立ちながら梅木が真っ直ぐに東野刑事課長のデスクに歩いてくる。その形相にみんなが驚いていた。東野の机にある書類を乱雑に一枚一枚たしかめる梅木。やはり、その中にナナの件の書類があった。ちゃんと生活安全課から提出されていたのだ。「なぜこれを無視した!?この男のストーカー行為は日ごとひどくなってる、なぜ誰か行ってやめろと怒鳴らない!?」書類を掲げ、東野に抗議する梅木。「現時点では不倫関係の別れ話によるもつれと判断したからです。」啓吾も、部屋の中にまで不法侵入しているんです!と梅木に加勢するが、「合鍵持ってんだよ!不法侵入とは言い切れない!」またもや太宰満警部は啓吾の意見を一喝した。「こちらはこちらで何かあったら連絡するようちゃんと言ってある。」「おまえそれでも警察官か!?何があってからじゃもう遅いんだよ!」「てめえ!」「証拠がないから、事件じゃないから捜査できませんじゃ、警察なんていらねえんだよ!」そう言い梅木は出て行った。「待て!じじい!」太宰の怒声を背に受け、啓吾も梅木のあとを追っていた。東野はしかめ面で椅子に座り直す・・。
「なんかムキになってませんか?婚約者の事件と何か関係があるんですか?あまり変なことしないでくださいよ?」「だったらついてくんなよ。」ふたりは三枝の法律事務所に来ていた。ビルの中にある立派な事務所、出迎えた三枝も一見どこにでもいる真面目そうな弁護士だ。啓吾は梅木に大立ち回りを始められると困るので、自分が話すと三枝にしゃべり始めた。ようするに<ナナさんとの関係はもう終わっている、これ以上近づかない方がいいんじゃないでしょうか?>「・・まいったな。彼女とは今喧嘩している最中で、この前家に行ったのも誕生日だから驚かせようと思って。なんというかサプライズで。」「でも彼女は本当に怖がってます。」「彼女は昔からちょっと被害妄想の面がありまして。私と知り合ったのも彼女が以前ストーカー被害にあってそれがきっかけで・・。私は彼女を守ったんです。救ったんです。」携帯に異常なまでの履歴についても、情緒不安定な彼女の事が心配でかけたと説明する三枝。「・・とにかく、彼女にはもう近づかないでください。これで仮になにかあったら犯罪行為ですから。」啓吾が話をきりあげようとしたその時!梅木が事務所のデスクを漁り始めた。「何してるんですか!?梅木さん!」ふざけてるように挑発するように大げさに漁る梅木。だが、とうとう見つけた。封筒をひっくり返すと床にバラバラと写真の束が舞い落ちる。そのすべての写真にはナナの姿が写っていた!隠し撮りだ・・。「・・誤解しないでくださいよ。以前ストーカー行為にあったときの調査資料ですよ!」突然梅木は三枝を羽交い絞めにし、デスクにあった万年筆をグッと掴んで三枝に突き刺す真似をした!「なあ!?二度と近づくな、今度やったら刺すぞ!」「・・ハア。あなた本当に刑事ですか?」「訴えたきゃ言えよ。」だがおまえも自分の弁護で忙しくなるなあ?<ストーカー弁護士>として!それは梅木の強烈な脅しだった・・。
署ではもちろん梅木の異常行動が問題視される。だが逆に梅木は、皮肉を東野や太宰にぶつけた。ストーカー事件じゃ点数は上げられないからなあ!「市民にはあんた達の出世なんかどうでもいいんだよ!」「いいかげんにしろよ!昔自分の婚約者が同じような事件で殺されたからってギャアギャア騒ぎやがって!」東野はさすがに切れた。梅木は謹慎処分を喰らってしまう。啓吾は筒井薫と共に今回のストーカーの件について聞き込みをし、報告書を提出するよう東野に命じられた。今回ばかりは梅木も少々やりすぎたのかもしれない。
薫は聞き込みを啓吾といっしょに回りながらも、「人を好きになるって結構厄介だよねえ。」と本音を口にした。夢中になりすぎると周りがみえなくなって、それでも期待どうりになることはほとんどない。それがわかってくると「だんだん臆病になってきちゃうんだよねえ、人を愛することに。」ジュースをストローですすりながらしんみり言うのだ。「・・いるんですか?好きな人?」啓吾は思わず尋ねてしまうが。。結局ストーカーの件で真新しい情報は得られなかったのだ。
啓吾が帰ってくると梅木がいた・・。茉莉亜が言うには偶然会って、鍋にするから無理やり来てもらったらしい。バツが悪そうに机の前に座る梅木は、仕事中に見るのとは少し感じが違う。というよりも、こういう状況に慣れていないのだ。鍋を3人でつついていても茉莉亜から(野菜ばかり食べないで肉も食べてください)(もっと飲んでください)とやたら世話を焼かれている。しばらく無言で梅木の様子を見ていた啓吾だったが、「やられっぱなしですね。」「・・うるせえ。」単独行動を好むのは捜査だけではないのだろう、いかにもこういう雰囲気が苦手な様子な梅木だったが、茉莉亜の寝顔が描いてある絵に突然話題を振る。「あの絵。あんたの昔の恋人が描いたんだろ?あんたの目の前で事件が起こったらしいなあ。」「梅木さん!いいじゃないですか。そんな話。」「別にいいじゃない。・・ひき逃げされたんです。」茉莉亜は梅木にその事を話し始めた。待ち合わせしている目の前でひき逃げにあい、恋人は死んだ。相手の両親からは自分と付き合っていたから息子は死んだと後ろ指を指され、勤めていた保育園も辞める。子供と正面から向き合えなくなってしまったのだ・・。そんな心の空白を埋めるように、啓吾が裁判の経過をたびたび伝えに来て様子を見に来てくれるようになった。今勤めている花屋も啓吾が紹介してくれた。そして花を買いに毎日のように心配して通ってくれるようになる。茉莉亜と啓吾の出会いはそういうことだったのだ。そして今、茉莉亜のお腹には啓吾の赤ちゃんがいる。「で、裁判はどうなったんだい?」梅木は現実的な質問をした。「えっ?」「犯人はどうなったんだよ?」茉莉亜の代わりに啓吾が答えた。「本人は真面目で家族思いで同情の余地があるということで、比較的軽い刑で今、刑期を勤めてます。」「その男に会ったのかい?」「・・いえ。私は顔を見たこともないし、話したことも。」「それで?あんたその男を許したのかい?あんたの愛する男を殺した男を許したのか!?」梅木の容赦のない質問に茉莉亜は言葉を失う。啓吾もそんな茉莉亜の顔をじっと見つめていた・・。
外まで梅木を送る時に、三枝に関する情報は今のところ何も出てきていないと報告する啓吾。だが、啓吾は茉莉亜に容赦ない質問を繰り返した梅木に当たる。「やっぱり許せませんか?殺した犯人が。・・それとも、大切な人を救えなかった自分の方が許せませんか?」グルッと梅木は振り返り、「利いた風な口聞くんじゃない!」と怒声を上げる。「・・俺はあの人が死んでから、なんのために生きてるのかわからなくなった。何年も考えてやっと気がついたんだ。あいつが出所してきたら俺が殺す!そのために生きてゆく。あいつは悪魔だ。だから俺も、悪魔になる!」梅木はそれだけ言って帰っていった。
部屋に戻ってきた啓吾は茉莉亜に聞いていた。「今日、梅木さんとどこで会ったの?」「・・うん。」「彼のお墓?たしか今日、命日でしょ。」「・・ごめん。黙ってて。」「いやいや、別そんなつもりじゃないから。」「・・なんで啓吾はそんなにやさしいの?私にちゃんと言いたい事言ってる?私・・いままで大事なこと考えるの、避けてたような気がする・・。」「深刻に考えちゃだめだよ?あの人好きなんだよ、そういう答えに困るようなこと聞くのが。」「・・啓吾の言う通りかもね。子供ができて、精神的に不安定なのかも。」茉莉亜はダイニングから姿を消した・・。啓吾は思わずため息をつく。あるのだ・・ふたりの間の空気が時折、よじれる・・。
ナナが恐る恐るマンションのドアを開ける。しっかりとチェーンは掛けられていた。ドアの隙間から顔出したのは啓吾だった。「こんにちは。近くによったので何か変わりはないかと思って。」ナナは啓吾を部屋に上げた。!?啓吾は床に散乱したファックス用紙の束を目の当たりにする。(なぜ警察に?)(死ね)(愛してる)そして、この瞬間にもファックスは動きだし、イタズラ文句の書いた用紙を吐き出した。「・・私、殺されるしかないんですか?」(殺してやる)おぞましい情景を目の当たりにし、啓吾は顔を硬直させるしかない。その傍らで、震えて泣き出してしまうナナがうずくまっていた・・。
啓吾は夜、三枝の自宅を訪ねた。もうすぐ夕食なんですけど。と言いながら自分の部屋にあげ、鍵を閉める三枝。妻や子供が入ってくるのを恐れている行動。啓吾は容赦なく問い詰めた。イタズラファックス用紙とこの家の近所のコンビニの防犯カメラに写っていた写真。それには三枝がファックス用紙を多数抱えている所がちゃんと写しだされていた。ファックスの文面も読める。「・・・」三枝の顔は凍りついた。「これだけ証拠が揃うと逮捕できます。・・俺はただ、素直に自分の過ちを認めてもらいたいだけです。ナナさんに謝罪して、二度とこんなことはしないと、約束してくれませんか?」「・・令状とって逮捕することもできたのに、あえて私を説得しに来たというわけですか?」三枝は啓吾の真摯な気持ちを理解できたのだろう、少し涙ぐんでいた。「彼女だって一度はあなたを愛した人です。あなたが犯罪者になるのを望んでいるわけじゃないと思うんですよ。」「・・あなたは、やさしい人だ。刑事さんは・・ほんとに人を愛したことがありますか?」「あると・・思います。」三枝はナナが初めてだったと話しだす。妻とは妊娠させた責任という形で結婚をした。だがナナはそうじゃない、彼女のためならなんでもできる。真実の愛を知ったんです。と涙ながらに話す三枝。啓吾もそれを聞き、自分も好きな人がいる、真実の愛だと言い切れるか、まだわからない、どこかで突然いなくなってしまうんじゃないか?と不安になることもある・・。「でも今は、精一杯愛するしかないと思ってます。愛ってこういうことじゃないですかね?見返りを求めず、相手を想い、全力で守り抜く。苦しませたり傷つけたりすることじゃ決してない・・。どうか、これ以上ナナさんを苦しめるのはやめてください。」啓吾は頭を下げた。「・・わかりました。あなたのおかげで目が覚めました。こちらこそ・・あなたのような刑事さんで本当に感謝しています。」三枝も頭を下げた。こうして、最悪のケースは免れ、事件は解決した・・。
うれしそうな顔をして車のところに戻ってきた啓吾を出迎えたのはしかめ面の梅木だった。車を走らせながら事のいきさつを助手席に座る梅木に説明する啓吾。「いや~ほっとしましたね。ちゃんと話せば伝わるんですよ。」誓約書も書いてもらったと梅木に見せる。「・・おまえの愛とやさしさが、あいつの心を開かせたというわけか。」と笑った瞬間に、もう誓約書をビリビリに破り捨てる梅木。「こんなものが当てになるか!なぜ逮捕しなかった?ここで捕り逃がしたら取り返しのつかないことになるぞ!」啓吾は車を止める。「昔のことをひきずって、ひねくれるのはやめてもらえませんか!?俺はね?人を信じてますよ!なぜ人を信じちゃいけないんですか?それがなくなったらそれこそ人間はおしまいでしょ!?茉莉亜のことだって、少しずつですけど、俺の気持ちを受け入れてくれてます。」「・・違う。彼女はおまえのことなんて想ってない。死んだ男のことをずっと想ってる。そしておまえもそのことに気づいてる。そうやって自分をごまかしてその内、おまえの心は真っ二つに裂ける。彼女を傷つけたくなかったら今すぐ彼女と別れろ。」「あんたにさ!!あんたに俺達の何がわかる!」その時!啓吾の携帯が鳴った。ナナからだった。メールには<助けて彼が家にきた>と入っていた。「車だせ!」車を急発進させる啓吾!
ドアの前で「三枝!早く開けろ!」と梅木が怒鳴る。だが・・部屋の中で三枝はナイフをナナに突きつけ、一生懸命話し続けていた。<これは運命なんだ>と。ナナは震えて声もでない。ガシャン!と窓ガラスを割って飛び込んできた啓吾を見て、三枝は叫ぶ。「邪魔しないでくれよ!!」「約束したでしょ!?三枝さん!?」「あんたには呆れたよ。人に説教みたいなことをして!」「俺は!あなたを信じてたからね・・。」「信じて?自分の彼女も信じられない奴が何言ってるんだよ!綺麗ごとばかり言って。結局君は人が言いなりになるのがうれしいだけなんだ。僕みたいにすべての自分をさらけ出してみろよ!それが真実の愛だろ!?まだわからないのか?君は彼女のことを本当に愛してない!ほんとじゃないんだよ、君は!」!!突然、啓吾は叫びちらして三枝に向かい、首を思い切り絞めあげていた。怒り狂って何を言っているのかわからない。グイグイと絞めつけ、梅木に止められなかったら、啓吾は三枝を殺害していたかもしれない勢いだった・・。
事件は解決したが、あとで梅木は啓吾に言う。「おまえの愛なんて、ただ相手を束縛しているだけだ。人の心をがんじがらめに縛りあげ、自分の思うとおりに動かして喜んでいるだけだ。・・世の中、自分しか愛していないのに、人を愛していると勘違いしている奴が多すぎる。・・これでわかったろ?おまえも怒りや憎しみで心がいっぱいになったら人を殺す奴だ。俺と同じだよ。」
啓吾が家に帰ってくるとあの絵が飾られてない。途端!啓吾は狂ったように探しはじめ、見つければまたいつもの場所にその絵を飾る。その光景を見て茉莉亜も叫ぶ。(本当は嫌なんでしょ?あの絵があるのが!本当のこと言えばいいじゃない!)「じゃあ聞くけどさ?茉莉亜は俺のこと愛してる?彼よりも俺のこと愛してる?」「・・・私は・・。」「ごめっごめん。今の忘れて。ちょっと色々あって・・。」啓吾はダイニングを出て行く。残された茉莉亜は呆然と悲しそうな顔をして立っていた・・。絵を飾ることにこだわる啓吾。それは男として、昔のこともすべて受け入れて尚、茉莉亜を愛しているという意味なのだろう。だが・・それを完全に実行できるほど、啓吾の心はまだ強くはなかったのだ。それは同時に茉莉亜自身の十字架として、ずっと苦しめてきたのかも知れない・・。朝、目が覚めた啓吾は茉莉亜が姿を消していることに気づいた・・。そして。刑務所の前で梅木はずっと待っていた。あの男・悪魔が出てくる所を・・。

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